日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『マンモスのみずあび』 市川里美

(月刊「こどもの本」2017年8月号より)
市川里美さん

絵本『マンモスのみずあび』が生まれるまで

 いつか象を描いてみたいと思っていた。やっと二〇一五年八月、念願叶ってインドの南方ケララ地方に旅立った。いつものことながら、その土地にいって実際過ごしてみるまで、この旅からどんな物語が生まれてくるのか、見当もつかない。だから未知の国へいくには楽しみがある。

 農園には十一頭の象さんが飼われていた。一頭ごとに、この地方でパパンと呼ばれる世話係が一人ついている。食事の世話、掃除、森へ木の枝切り、そしてみずあびをさせることが毎日の仕事なのだ。見習いの子供もいる。アプーズという。もともと野生の象を飼い慣らすには長い時間がかかるから、人も象も若い時から始めるのがいいのかもしれない。なかに八才になる象がいた。これがシーバン。若いだけに動作に動きがあってデッサンするのも楽しい。大人のパパンに交じって象を洗うアプーズの姿もどこか大人とは違ったかわいさがあって私の目をひく。こうして子供と象の物語の小さい芽が私の中にうまれてくる。

 アプーズとこの象は毎日一緒のともだち同士だ。アプーズはこの大好きな大きな相棒にマンモスというあだ名をつけた。そして時は、モンスーンの雨季。雨が降り出すと、ここではまるでバケツをひっくりかえしたような大降りになる。川の水かさはぐんぐん増す。しかしこのモンスーンの大雨は、土地の人や植物にとっては天からの恵みの雨なのだ。このインドの夏の暑さは、この大雨によってひと時、ぐんと過ごしやすくなるし、木々は、しずくをたらして活き活きしてくる。そしてその頃まだ小さい芽であるだけの私の物語にとっても、天からの恵みのように、格好な条件が揃うことになる。モンスーンの雨は私の想像力をかきたてた。洪水になったらアプーズとマンモスはどうするだろう? 森の動物たちはだいじょうぶだろうか? と。

 こうして土地の人と一緒に過ごしたケララでの滞在の思い出からアプーズとマンモスの活躍する絵本『マンモスのみずあび』が生まれたのです。

(いちかわ・さとみ)●既刊に『なつめやしのおむこさん』『ペンギンのパンゴー』『じゃがいもアイスクリーム?』など。

『マンモスのみずあび』
BL出版
『マンモスのみずあび』
市川里美・作
本体1、400円