やさしいミツバチの話
「ミツバチの童話と絵本のコンクール」の絵本の部の課題作品として二年前に書いたものです。ミツバチといえば、だれしもハチミツを思い浮かべ、それをホットケーキにぬったり、人にプレゼントしたりするストーリーになりがちです。しかし、ミツバチの一生を考える時、おいしくて楽しいだけのおはなしというわけにはいきません。
幼虫の世話から巣づくり、花のミツの採取と目まぐるしく働きながら、ほぼ四十日ほどで生命を終える働きバチの生きざまはなんとも切なく崇高にさえ見えます。花から花へと飛びまわるミツバチはいったいなにを考えているのか。短い一生であっても花のおかげで自分たちのくらしを支えることができたのです。中には花への感謝を忘れないミツバチだっているにちがいありません。そこでどうすればその思いを伝えることができるか。一匹のミツバチと年老いたバイオリンひきとの交流を通して描くことにしました。
主人公のミツバチぎんは自分のはねでバイオリンの曲をひいて、花たちへの最後のプレゼントにしようと思い、バイオリンひきのもとで練習にはげんだのです。しかし、ミツバチの巣はオオスズメバチにおそわれ、ぎんも生命を失います。バイオリンひきはぎんのかわりに花たちのあいだを歩きまわりながらぎんの好きだった曲をひいてあげます。それは花に対するぎんの恩返しの曲であり、別れの曲でもあったのです。
子どもが喜ぶからといって、おもしろおかしいばかりが絵本ではありません。たとえ幼い子どもであっても生命の尊さをしっかりとわからせてあげなくてはなりません。でもお説教になってしまってはおはなしとしての魅力がなくなってしまいます。心やさしいミツバチが死んでしまう悲しいおはなしですが、バイオリンひきの老人とミツバチぎんのあたたかな友情物語としても読んでください。絵はぼくの好きな柿本幸造さんの画風に似たおぐらひろかずさんに描いてもらいました。画面から曲が流れてくるような気がします。
(にしもと・けいすけ)●既刊に『おじいちゃんのごくらくごくらく』(長谷川義史/絵)『西本鷄介児童文学論コレクション』など。
鈴木出版
『ミツバチぎんのおくりもの』
西本鶏介・作 おぐらひろかず・絵
本体1、300円