日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『天馬のゆめ』 ばんひろこ

(月刊「こどもの本」2017年2月号より)
ばんひろこさん

飛行機は空を

 このたび新日本出版社から、特攻機のお話を出版いたしました。初めて書いた、戦争のお話です。

 特攻隊の資料は、やはりどれも、いたましいものでした。その中で、とりわけ気になる飛行機がありました。九三式中間練習機というものです。

 これは戦闘機ではなく、これから戦闘機に乗る若者が、飛行の練習をするための飛行機です。機体は木製、翼は布張りの複葉機。戦闘機と見分けるために、明るいオレンジ色に塗られていたので、赤とんぼと呼ばれていました。どの資料を見ても、この飛行機はとてもかわいらしく見えたのです。

 布張りの翼だったので、かろやかに空を飛び、曲芸飛行もできたそうです。

 ところが、戦争もいよいよ追い詰められてくると、このような練習機も、特攻に使われるようになりました。美しい色は、戦闘機と同じような深緑色に塗り変えられ、もともと六〇キロの爆弾を搭載する設計だった所へ、二五〇キロもの爆弾をくくり付けられました。さらに爆発の威力を増すために、アルコール燃料を載せて、若者たちは出撃し、その命を落としたのです。あまりにも重い荷物を持っていたために、空高くを飛べず、海面近くをゆるゆる飛んでいったそうです。中には、飛びたつときに上昇できず墜落し、爆発して亡くなった人もいたそうです。

 わたしにこの悲惨な特攻が書けるのだろうかと不安になったころ、ふいに、命を落とした若者たちはもちろん、飛行機も無念だったろうなあ、という思いがあふれてきました。

 空を飛ぶために生まれてきたのに、爆弾を積んで、敵の船めがけて落ちていかなければならない。それよりも、どんなにか、青い空を飛んでいたかっただろうな、と思ったのです。

 その思いから生まれてきた「天馬」を、画家の北住ユキさんが、より美しい、いとおしい飛行機にしてくださいました。

 戦争の引き起こす悲劇、平和の尊さを、小さな子どもたちにも伝えられたらいいな、と思っています。

(ばんひろこ)●既刊に『まいにちいちねんせい』『団地ぜんぶがぼくのいえ』『ありがとうがいっぱい』(共著)など。

『天馬のゆめ』

新日本出版社
『天馬のゆめ』
ばんひろこ・さく
北住ユキ・え
本体1、400円