日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『ゆうだちのまち』 杉田比呂美

(月刊「こどもの本」2016年9月号より)
杉田比呂美さん

もうひとつの『ゆうだちのまち』

 不思議な夕立を、一度見たことがあります。空を見上げると、マシュマロのような形をした雲が、ぽこぽこと何層にも連なっているのです。今までに見たことのない雲でした。しばらく雲を眺めていると、ぽつぽつと雨が降ってきたと思うやいなや、一気にばしゃばしゃと大雨になってしまいました。
スーパーマーケットの日よけの下で雨宿りをしていると、10分ほどで、夕立は過ぎ去っていきました。あのマシュマロのような雲。なんとも不思議で、もう一度見てみたいな、と思っています。
 夏の午後、駆けぬけるように激しく降る雨、夕立。
 夕立は、街の風景を一変させます。雨水は川のように流れ、道路の側溝へどんどん吸い込まれていきます。激しい雨音にあたりの会話や物音はかき消され、ときおり通る車のタイヤが道路の雨水をかきわけながら、ざあーっという音を連れて走っていきます。そして夕立が去ったあと、草木の緑はくっきりと鮮やかになり、街の空気は埃っぽさが流されたのか、いくぶん澄んで、すがすがしさがただよいます。まるで夕立が、街全体を洗ってくれたかのようだ、といつも思うのです。
 わたしたち大人にとっては困りものの夕立ですが、子どもたちにとっては、そうではないかもしれません。強い雨の中へとびこみ、体で雨を感じてみたくなるのではないでしょうか。
 かくいう私も、夕立の時に、ずっと試してみたいと思っていることがあります。それは、勢いよく落ちてくる雨の下で、シャワーのように、シャンプーで頭を洗うこと! もちろん、恥ずかしいので実行はしませんが、そう思ったことのある人は、少なくないのではないでしょうか。
『ゆうだちのまち』という絵本を描きました。女の子とお父さんが、外出先で夕立に遭遇します。さてさて、夕立を知らない女の子は、どんな気持ちになるのでしょうか。夕立の匂いや音、街や人びとの様子といっしょに楽しんで頂けたら嬉しいです。

(すぎた・ひろみ)
●既刊に『12にんのいちにち』『ひとりぼっちのくうくう』『ポモさんといたずらネコ』など。
『ゆうだちのまち』

アリス館
『ゆうだちのまち』
杉田比呂美・作
本体1、300円