日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私がつくった本72
アリス館 山口郁子

(月刊「こどもの本」2016年7月号より)
うみのそこたんけん

中川ひろたか先生

うみのそこたんけん
中川ひろたか/文、澤野秋文/絵
2016年5月刊行

 中川ひろたか先生の「ちきゅうのふしぎ絵本シリーズ」の一冊目は、星をテーマにした『ぼくはうちゅうじん』でした。では二冊目は? 上を見上げたので、今度は下を…ということで、海の底に。一冊目は親子の会話でお話が進みましたが、今回は一転して登場人物は男の子ひとり。かわりに、なんと海坊主の親子が! 画家さんは、ご自身も深海生物好きという澤野秋文さんにお願いでき、基本は押さえつつユーモラスな生物たちを描いてくださいました。
 そして入稿も済み、出版も間近…となったころ、営業が気になるひとことを持って帰ってきました。「登場する生物の名前が、もう少しわかったらいいな、と書店員さんがおっしゃっていた」との報告。じつは企画の当初それを考えたのですが、この本では生物そのままではなくユーモラスに描いているので、全体のストーリーや絵で楽しんでもらえれば、と思って種類名は入れないことに決めていました。
 ですが、書店員の方の意見はもっともで、読者の子供達もきっと名前が知りたくなるはず…。調べるといっても、子供向け深海生物の本はまだまだ少ないと思いました。そこで、3つの方法を考えました。
1、本の見返しに、生物の絵と種類名を入れる。
2、本とは別に種類名を載せた挟み込みを作る。
3、カバーの裏にすごろくを作り、そこに本の中の深海生物に登場してもらい、種類名を入れる。
 一番コストがかからないのは「1」ですが、すでに本の内容にそった見返しの絵があり(どんな絵かはぜひ本を見てくださいね)、種類名に変えると余韻などがなくなってしまうのでダメだと思いました。
 本と別進行でできるので、一番安心なのは「2」ですが、別になっているとなくしてしまうことが多く、本との一体感が薄まってしまうと考えました。
 一番おもしろそうなのは「3」ですが、すごろくの案を考え、追加で絵も描いてもらわなくてはならないし、進行上きびしい上に印刷代も余計にかかります。でも、カバーの裏にすごろくがあったりしたら、子供はどんなにうれしいでしょう。そう考えると、すでに作業を終えている作家さんやデザイナーさんに、さらに働いていただくことになってしまいますが、「3」でいきたいと決心しました。
 それから一週間くらいの間に、すごろくのラフ、追加の絵、文章…と、みなさん嫌な顔一つせずに、ときには朝方までがんばってくださり、本当に美しくて楽しいすごろくが出来上がりました。
 本の完成をきちんと考えてくださった書店の方、それを活かそうとがんばってくださった方々、本がよりよくなるならと力を合わせてくださる人がこんなにいることを、本当にありがたく思いました。本はもちろん、すごろくでまた、子供達が海の底を探検している気分を味わってくれたらと思います。