日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『海色のANGEL』 池田美代子

(月刊「こどもの本」2016年5月号より)
池田美代子さん

入れ替わり願望

 原作は手塚治虫の『エンゼルの丘』。(一九六〇年から『なかよし』に連載)主人公は小さな島の人魚姫「ルーナ」。ある罪を犯したために死刑を宣告される。姫は心やさしく美しく清らかで、女の子なら一度は憧れるヒロインである。一方、ルーナと瓜二つの顔を持つ人間の少女「あけみ」は、自由奔放な等身大の少女として描かれている。
 双子(のようにそっくりの子ども)の入れ替わりは、古今東西、わりとよくある物語で、ちょっと思いつくだけでも、ケストナーの『ふたりのロッテ』やマーク・トウェインの『王子と乞食』、男女の入れ替わりであれば、古典の『とりかへばや物語』など。現代においても、ドラマや漫画にも使われる設定である。それだけ、多くの人の願望であるような気がしてならない。
 私は幼い頃、世界のどこかに自分にそっくりの他人がいるかもしれない、もし、入れ替わることができたら、どんなに楽しいだろうかと妄想した。親から禁じられているあれやこれやをやってみたい。勉強もせず、時間を気にせず、遊び呆けていたいと企んでいた。「自分ではない他人」。しかし「自分とそっくりの他人」だからこそ、わくわくする。
 まさに、『エンゼルの丘』では、私と同じように考えたあけみが、勉強や習い事をしたくないために、ルーナに入れ替わってもらう。しかし、結局、あけみ自身もルーナと間違えられたため、事件に巻き込まれて、とんでもない冒険をする羽目になってしまう。
 だが、私はせっかく入れ替わるなら、ルーナも「ノア」(原作ではあけみ)もお互いの成り代わりを楽しんでほしいと考え、大胆にアレンジしてしまった。ルーナは人間の少女として学校生活を積極的に楽しみ、ノアは姫として戦う。
 幼い頃のように、手塚治虫が作った世界で遊び、ヒロインのふたりになった気分で、入れ替わりを楽しんでいる。読者の子どもたちも、同じように胸を躍らせ、さらに想像の世界を膨らませてくれるようにと願って。

(いけだ・みよこ)
●既刊に「新 妖界ナビ・ルナ」シリーズ、「摩訶不思議ネコ・ムスビ」シリーズなど。

『海色のANGEL』
講談社
講談社青い鳥文庫
『海色のANGEL』(全5巻予定)
池田美代子・作
尾谷おさむ・絵
本体各620円