日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

『ときめき団地の夏祭り』 宇佐美牧子

(月刊「こどもの本」2016年4月号より)
宇佐美牧子さん

どんな生き方が得?

 私は、三人兄妹の真ん中に生まれました。兄がマイペースで妹の面倒を見るタイプではなかったせいで、私はいつしか、しっかり者のお姉さんキャラを引き受けていました。年下の妹が、自由で気ままに見えたものです。マイペースとしっかり者と自由人。どんな風に生きるのが得なんだろう?
 そんな思いが、胸の中にずっとありました。おかげで今も私は、どうすると得かな?と、つい物事を損得勘定で考えてしまうところがあります。一度その気持ちと向き合ってみようと、この物語を書きはじめました。 
 四年生の友里たちは、学校のボランティア活動で、木目木団地の夏祭りを手伝うことになります。木目木団地はお年よりばかり。そこで団地では、団地を活気づけようと、住人がお店を出したり教室を開いたりする、元気復活プロジェクトが行われていました。自治会長の黒田ゲンさんも、プロジェクトで豆腐屋をしていますが、足をけがして困っていました。
 それを知ったボランティアグループのリーダー、玲子ちゃんは、ゲンさんの豆腐の配達を手伝おうと言いだします。ボランティアなんて夏祭りの手伝いだけで十分、というサキラちゃん。大好きな野球優先でもいいならやってもいい、と考える吉田。友里は、やりたいような、やりたくないような気持ちです。
 四人の中で、誰が一番得なんでしょうか?
 物語を書き進めるうちに、友里たちと一緒に私も、人との関わり方や損得について、自分なりのこたえが見つけられた気がしています。
 今、私は木目木団地そっくりの住宅地に住んでいます。今年は、自治会の班長が回ってきました。班長の仕事が面倒だなと思うたびに、「地域に住むってのは、そういうことなんじゃないかな」というゲンさんの言葉を思い出し、気持ちを改めています。
 この物語のおかげで、私も少し、新しい物の見方が出来るようになったようです。

(うさみ・まきこ)
●既刊に『合い言葉はかぶとむし』『星おとし』。

『ときめき団地の夏祭り』
くもん出版
『ときめき団地の夏祭り』
宇佐美牧子・作
小栗麗加・画
本体1、300円