日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『おふくさん』 服部美法

(月刊「こどもの本」2016年2月号より)
服部美法さん

日本らしさを詰め込んだ絵本

『おふくさん』は、古くから日本人が大切にしてきたことを感じ取ってもらえる絵本だと思います。
 日本人が大切にしてきたことのひとつに「笑う」ということがあります。
人は、怒っている時や泣いている時は、心に余裕がありません。でも、そんな
時、「笑う門には福来たる」と言って笑い、心に余裕を生み出し、気持ちを楽にしてきたのが日本人です。この絵本でも、怖い顔でやってきた鬼を何とか笑顔にしたくて奔走する十人のおふくさんたちを描きました。おふくさんたちのユーモアたっぷりな言動を日本人らしさという視点からも楽しんでもらえたら嬉しいです。
 また、この絵本の中でおふくさんたちが、鬼を笑わせようとして思いついた「にらめっこ」も、古くから日本に伝わる遊びです。この遊びは「笑うこと」から発展し「相手も笑わせて一緒に楽しむ」ものです。しかし、単純に笑いの和を広げるだけのものでしょうか。変な顔をさらけ出すことで、お互いの心の距離を縮める効果もあるように思えるのです。これもまた、日本人の知恵と工夫が詰まった遊びだと思います。
 さらに、この絵本で、おふくさんたちは、乱暴にやってきた鬼を排除しようとはしません。排除するどころか、「一緒に遊びましょ」と鬼を仲間に招き入れます。日本以外の文化では、鬼や悪魔は、忌み嫌われ、遠ざけられてきました。しかし、日本には、たとえ「鬼」であっても味方に取り入れ、自分たちを守ってくれる強い神として崇めてきた歴史があるのです。 
 そう言った意味でもこの『おふくさん』は日本らしさを詰め込んだ絵本です。この絵本を開いて、日本らしさを感じながら、大いに笑い、大いに福を呼び込んでもらえたら幸いです。
 最後に、福を招く「招き猫」や無病息災を願う「豆大福」、難を転じる「南天」など、日本人が、願いや祈りを込めてきた縁起物を、絵本の中にちりばめました。隅々まで楽しんでもらえたら嬉しいです。

(はっとり・みほ)
●既刊に『もりのちいさなはいしゃさん』『月のひみつがわかる つきにいったうさぎのおはなし』など。

『おふくさん』
大日本図書
『おふくさん』
服部美法・ぶん・え
本体1,300円