日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『みんなのいえ』 たしろちさと

(月刊「こどもの本」2024年5月号より)
たしろちさとさん

夢見る子ちゃんの家づくり

 子どもの頃から、建物…中でも〝家〟について想像を巡らせることが好きでした。家の形や間取りや、その家が建っている場所や、そこにはどんな人(動物)が住んでいるのか…。考え始めたら、あっという間に時間が経ってしまいます。絵も描きますし、模型も作りますし、頭の中でそこに住んだりもします。そんな夢見る子ちゃんなわたしの、夢の家をカタチにしたのが『みんなのいえ』です。

 この絵本は、荒れ果て忘れ去られた一軒の家を訪れた旅人たちが、少しずつ、少しずつ、みんなで家を直し、世界で一つの楽しい家をつくっていく物語。2001年の月刊誌に掲載された私のデビュー作に、この度、絵を描き加え、新たな装いで、読者の皆様にお届けできる機会をいただきました。

 おはなしが生まれたきっかけは、20年以上前に遡りますが…学生時代最後の旅先でのことでした。バスの窓から、ゆったり流れていく景色を眺めていると、一軒の家が目に留まりました。荒れ果てた家――おそらく住む人のいない家――屋根の穴から梁が見えていました。この家はどういう時間を過ごしてきたのだろう。家にも心があるだろうか。その時の印象は、1枚の絵が心に焼き付くように、ずっと心に残るものになり、やがて、一軒の家のものがたりとなりました。

 家に必要なものってなんでしょう。旅人がたどりついた荒れ果てた家。「いえというものは すこしは きれいでないと」旅人は家の修理をはじめます。壁を直す人、畑を作る人、窓を作って光を取り入れる人……この家に次々やってくる旅人たちにはそれぞれ役割があります。住む人が増えるたび、少しずつ、家も暮らしも変わっていきます。それぞれの個性が積み重なって、やがて、ピカピカではないけれど、たくさんの工夫がつまった、世界で一つのみんなのいえができあがります。

 私もこんな家に暮らしてみたい…今日も楽しく夢見ています。

●既刊に『おふろおじゃまします』『きょうりゅううんどうかい』『はなびのひ』など。

『みんなのいえ』"
文溪堂
『みんなのいえ』
たしろちさと・作
定価1,650円(税込)