絵本と年齢をあれこれ考える⑤

磯崎園子●絵本ナビ編集長 


半分現実!?(0歳、1歳、2歳と絵本)


 ここまで「0歳、1歳、2歳と絵本」について語ってきたけれど、ここで振り返ってみれば、その楽しみ方は成長によって大きく変化していくことがよくわかる。当たり前のことだけれど、この3年間というのは見えている世界も景色も全然違うのだ。すべてが平等に知らないことだらけ。つまり絵本を通して見る世界だって、彼らにとっては半分現実なのである。絵本を読んでもらう声はそのまま彼らへの呼びかけとなり、ページをめくることは遊びとなり、絵を見ることは大事な出会いの瞬間となる。

 だからこそ、その反応もさまざま。例えば、知人のふたごの赤ちゃんが絵本を読んでもらう様子を動画で見せてもらったところ、一人の子は、呼びかけるお父さんに対して声を出して笑っている。何回読んでも、ケタケタと楽しそうに笑う。ところがもう一人の子は、全くの無表情。声も出さない。「絵本があんまり好きじゃないのかな……」そう思ってよく見ると、口がもぞもぞ動いている。手足がバタバタ動き出している。どうやら彼女は体で反応をしているようなのだ。今度は少し大きくなった二人が、お父さんと絵本の中のくだものを一生懸命食べている様子。一人は夢中で食べ続け、もう一人はお父さんとカメラを向けているお母さんに対して順番にくだものを渡してあげている。条件は同じはずなのに、絵本に対する受け取り方が全然違うのである。

 もちろんこの先も、二人はずっとそれぞれに変化していく。それが個性であり、成長のスピードの違いであり、表現の方法の違いなのだ。そんな観察が面白くないわけがない。この時期の絵本というのは、大人にとってもやはり半分現実と言っていいのかもしれない。

響きが言葉になっていく瞬間

 0〜2歳、この年齢を対象とした絵本は「赤ちゃん絵本」として括られることが多い。当然その多くは感覚的に楽しめるようにつくられ、難しい言葉も登場しない。もっと細かく0歳、1歳、2歳、月齢まで指定してつくられている絵本もある。絵本選びを迷っている大人にとっては、大変ありがたいことである。一方で、想定している対象年齢よりもずっと早くに読まれ、大きくなるまで愛読される絵本がある。それらは、とても個人的な選書であり、その偏りにとても興味をひかれる。

『はんぶんこ!』(よねづ ゆうすけ・作 講談社①)は、一つのものを二人で仲良く半分にわける喜びを、しかけで楽しむボードブック絵本。お友だちとのやりとりを理解するのは2歳頃だろうか。それでも、言葉がまだおぼつかない1歳の子が、この絵本を繰り返し開き、母親の「はーんぶーんこっ!」という呼びかけに対し、一生懸命真似をしている。とにかく言いたくて仕方がないのだ。そのたびに口をパクパク動かし、表情がころころ変わる。そのうちすんなりと言えるようになり、言葉の意味を理解していくと、途端に今度は絵本の中の美味しそうなおやつの方に関心が向いていく。響きが言葉になっていった瞬間に、読み方はがらっと変わる。


『はんぶんこ!』"
『はんぶんこ!』
よねづ ゆうすけ・作 講談社


『りんごです』(川端 誠・作 文化出版局)もまた、不思議な存在感のある絵本。りんごがかじられ、小さくなり、種だけになり、芽が出て、やがてまたりんごの実がなり……という流れが「りんごです」の言葉のみで進んでいく。そして、この絵本を読むたびに赤ちゃんだった息子は大爆笑していたのだ。なぜだかわからないけど「りんごです」と言えば笑ってくれるので、こちらも熱演を繰り返す。絵本ナビのレビューの中にも同じことを書いている読者がいる。響きが面白いのか、繰り返しが笑ってしまうのか。なんとも幸せな絵本なのである。

『す〜べりだい』(鈴木 のりたけ・作 PHP研究所)はだじゃれ絵本。だからと言ってしまいこんでいてはもったいない。なにしろこの絵本は「すべりだい」と普通には読ませてくれない。「すーーべりだい」になったかと思えば、「すべりだいー」「だいーん」「すべりぱい」「すべりさい」「すべれない…」と続く。読んでいるだけでふざけているような気分になり、乗ってくると今度は声が大きくなり、自然に体が動いてしまっている。気がつけば、子どもも一緒に動いている。

体が先に反応する絵本

 体を動かしながら読む絵本というのは、ずっと人気がある。しかし、この頃の子どもたちにとっては格別だ。へたすれば、絵本を見ているよりも、体が動いている時間の方がずっと長いことだってある。『ぎゅっ』(ジェズ・オールバラ・作・絵徳間書店)のように、読んでいれば自然にぎゅっとしてもらいたくなる絵本。そのまま抱っこの時間に変わっちゃってもいいよね。『ぺんぎんたいそう』(齋藤 槙・作 福音館書店②)は、ペンギンの動きが、心なしか1歳の子どもたちの動きにそっくりなのが可愛い。保育園の2歳児クラスで読めば、みんなが大盛り上がりで上手に真似をするという声も寄せられている。


『ぺんぎんたいそう』"
『ぺんぎんたいそう』
齋藤 槙・作 福音館書店


 読むたびに、同じページでパクッと絵本を食べてしまうという、愛らしいエピソードが寄せられているのが『ふるふるフルーツ』(ひがし なおこ・文 はらぺこめがね・絵 学研プラス)。リアルで瑞々みずみずしい絵はもちろん、耳で聞いても美味しそうな言葉の響きに、思わず体が先に反応してしまう。『じぶんでひらく絵本 全4冊セット』(H・A・レイ・作 石竹 光江・訳 文化出版局)は、絵本の各ページについている折返しを自分でめくると、さらに動物が登場し驚かせてくれる。これは、小さな子どもたちにとっては嬉しい発見。自分でめくることで、世界が広がり動物たちが動き出す。これは何度だってめくりたくなってしまうはず。絵本が半分現実な彼らにとって、体感することも大事な読書の時間なのだ。

絵本が原体験になる?

 最初はじょうろを使ってささやかに始まった水遊びが、ホースを使い、水たまりをつくり、どんどんエスカレートして、最後にはどろんこになる『こぐまちゃんのみずあそび』(わかやま けん・作 こぐま社③)。実際に目の前で起これば、大人は声をあげてしまいそうな出来事だけれど、次から次へ思いつくままに遊びが広がっていく快感は、この年齢にこそ体験させてあげたいもの。「もっとやりたい」「もっともっとやりたい」という気持ちを、大事に育ててくれるのが、この絵本だ。


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『こぐまちゃんのみずあそび』
わかやま けん・作 こぐま社


「くるかな? くるかな?」「きたー!」この繰り返しがたまらないのは、『でんしゃ くるかな』(きくち ちき・作 福音館書店)。電車が来たら、嬉しくて手も足も上がっちゃう。その喜びを全身で表現することを我慢させる理由なんてない。思いっきり感情を解放させてしまえばいい。読んだ後、なんだかすっきり気持ちがいい。

 記憶には、ほんのちょっぴりしか残らなかったとしても、この頃に絵本で味わった感情や、体で覚えた感覚は、きっと大人になるまで原体験として残っていくのではないだろうか。例えば、私たちは大人になった今でも「うんとこしょ どっこいしょ」のフレーズを聞けば、思わず何かを引っぱりたくなってしまいそうになる。そう、言わずと知れたロングセラー『おおきなかぶ』(A・トルストイ・作 佐藤 忠良・絵 内田 莉莎子・訳 福音館書店)の影響である。この絵本の主な読者層は1〜2歳。思ったよりも小さい。それは、この絵本がストーリーだけでなく、言葉のリズムで感覚を大いに刺激してくれる絵本だということを物語っている。そして、その記憶はちゃんと残っていくのだ。

 半分現実、つまり半分は大人の責任でもある0歳、1歳、2歳と絵本の関わり。「どの絵本を読むのか」も大事だけれど、同じくらい大切なのが「どんな風に読むのか」ということ。読んでいる時に、彼らは自由にしているのか。自分なりの反応で楽しんでいるのか。その時間が「楽しいもの」だという感覚を残していってあげれば、色々な記憶とまざりながら、本格的な絵本の読者である3歳へとつながっていくのかもしれませんよね。

忘れたくない人へ

 ここまで書いてきて、ただひたすらに思うのは、0歳、1歳、2歳の子どもたちの愛らしさ。その様子を想像しては表情がゆるんでしまう。そんな人はたくさんいるだろうし、成長していく我が子を喜ぶ一方で、さびしさを覚える人もいるだろう。どの年齢も大切だけれど、この時代は特別なのだ。忘れたくない。その行動の一つ一つを目に焼き付けておきたい! 最後はそんな大人の人へ贈る絵本。

 その頭の大きさに、油断すると……ごん! ああ、頭をぶつけちゃった。痛いよね、痛いよね。ああ、可愛い。『ころんちゃん』(まつなり まりこ・作 アリス館)で、ころんころんと転がる赤ちゃんを堪能。赤ちゃん時代の様子と行動が全てつまった『みんなあかちゃんだった』(鈴木まもる・作 小峰書店④)を読みながら、その頃を振り返り、『いっさいはん』(minchi・作・絵 岩崎書店)で、ぎゅっとスポットをあてられた、1歳半という年齢の可笑しな習性を眺めながらくすっと笑う。どうでしょう? 大人が思いにふけりながらじっと絵本を見ている光景は、子どもたちにも見せちゃうのがいいと思いますよ。


『みんなあかちゃんだった』"
『みんなあかちゃんだった』
鈴木まもる・作 小峰書店


 さあ、さて。次は3歳と絵本の話。いよいよ物語の世界の入り口に立つ年齢。どんな風に楽しんでいるのでしょう。お楽しみに!


★いそざき・そのこ 絵本情報サイト「絵本ナビ」の編集長として、おすすめ絵本の紹介、絵本ナビコンテンツページの企画制作などを行うほか、各種メディアで「絵本」「親子」をキーワードとした情報を発信。著書に『ママの心に寄りそう絵本たち』(自由国民社)。

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