絵本と年齢をあれこれ考える④

磯崎園子●絵本ナビ編集長 


たくましくって、奥深い(2歳と絵本)


やってきました「イヤイヤ期」

「あ、いない!」

 慌ててまわりを見渡すと、遠くの方に小さく見える息子の背中。一目散に駆け出していくその先には、一体何があるというのだ。頼むから待ってくれ。かと思えば、その場所から一歩も動こうとしない。地面に転がり泣き続ける。気がつけば部屋がめちゃくちゃ、お風呂に入らない、お風呂から出ない、服を着ない、首を横にふり続ける……はい、やってきました「イヤイヤ期」。その後、どう対処したのか覚えてもいない。いわゆる「魔の2歳児」の時期。思い出そうとすると記憶にもやがかかってしまうのだ。よくがんばった、私。

 ところが困ったことに、たまらなく可愛いのもこの時期。小さな手でおやつを口に持っていく姿、うどんを上手にすすれたと満足げな微笑みを浮かべ、大好きなものを見れば全身を使って喜びを表現し、ぬいぐるみやブロックで「自分の王国」を作り上げてしまう。そして、たとえどんなに泣き叫ばれても、見れば一瞬で心が昇華してしまう天使のような寝顔。恐るべし2歳児、よくできている。心が追いつかない。

その姿に圧倒されながら

 まだまだ赤ちゃんの面影を残していた1歳から、急に子どもらしい雰囲気へと変化するこの頃。とまどう親をよそに、彼らは思うがままにどんどん行動を起こしていく。あれがしたい、これもしたい。自分でやってみたい、思い通りにしてみたい。そして、そんな彼らにとっての大事な意思表示の方法こそ、首を横にふることなのだ。

「いやだ」

 そうじゃない、こうでもない。理由を聞かれても困る。だけど、とにかく「なにかがちがう」。それだけははっきりとわかる。だから一心不乱に叫びつづける。

「いやだいやだいやだー!」

 ひたむきなその姿に圧倒されながら、気が付けば感動すら覚えるのである。何かを追求し続けている。まるで欲望の塊。2歳って、やっぱりすごい。……はて、そんな彼らとの絵本生活。一体全体、どう楽しめばいいのだろうか。

注意をひく、夢中にさせる、解放していく

 何とか平和な時間を取り戻したい。どうにか絵本に注意を向けさせたい。そんな時に即効性があるのが「あれっ、これなんだろう?」の声かけ。こちらを振り向いた瞬間、すかさず絵本『やさいのおなか』(きうちかつ作・絵 福音館書店)を差し出す。もう一度「これ なあに」。見れば不思議な形のシルエット。見たことあるような、ないような。それもそのはず、正解はすべて野菜の断面図。なんて面白い形なのだろう。読んでいる大人にだってなかなかわからない。そこで一緒に答えを考える。「ピーマンかな、たけのこかな」「ピーマン知らない? じゃあ本物見てみようか」。そうやって、好奇心に直接訴えかけていく作戦である。

 多くの子どもたちの心を惹きつける「のりもの」。けれど『せんろはつづく』(竹下文子文 鈴木まもる絵 金の星社①)の主役は線路。広い野原の真ん中で、線路と線路をつなげていく静かな始まり。ところが子どもの目はすでに輝いている。山があればトンネルを掘り、川があれば橋をかけ、池があれば線路もぐるりと遠回り。やがてつなげた線路の向こうから、煙をはきだしてやってくるのは……? そうか、子どもたちはこの遊びが大好きなのだ。絵本を読みながら、自分の頭の中でも線路をつなげ、広げ、考え、そして走らせる。夢中になるものが重なれば、それはもう一目散に絵本の中の世界へ駆け出していってしまうはず。


『せんろはつづく』"
『せんろはつづく』
竹下文子文 鈴木まもる絵 金の星社


 雨が降ろうが風が吹こうが、とにかくお散歩したいお年頃。彼らはとにかくよく歩く。そして、絶えず何かを「発見する」。視点が低いからだろう、地面に動くものがあればすぐに立ち止まって手をのばす。だからなかなか前に進まない。これじゃあ、時間がいくらあっても足りない。家の中ではうずうずするばかり。外に出たい、もっと歩きたい、なんで自分はここにいなきゃいけないの……なんて気持ちになる前に差し出したいのがこの絵本。『14ひきのぴくにっく』(いわむらかずお作 童心社)。だって、そこには大好きな散歩の景色がそのまま広がっている。

 駆け出したくなるような解放感は、何も外だけにあるとは限らない。それを言っちゃおしまいよ、と世のお母様方からはお叱りの声も聞こえてきそうな絵本が『すっぽんぽんのすけ』(もとしたいづみ作 荒井良二絵 鈴木出版)。なにしろ絵本の中のヒーローはこう断言するのだ。「お風呂あがりは裸がいちばん」。説得力がすごい。確かにそうかもしれない……いやいや、パンツははきなさい。でも、この満足感は大事だよね。

できることが増えていく

 止まらないのは好奇心だけではない。とにかく「自分でやりたい」という気持ちが芽生え、実際にできることもどんどん増えていく。体だって全身上手に動かせるようになる。「『できるかな?』と言われて『できるよ、ほらっ!』と嬉しそうにポーズをする」という可愛いレビューが沢山寄せられているのは『できるかな? あたまからつまさきまで』(エリック・カール作 くどうなおこ訳 偕成社)。できる喜びをあらわすところまでがセットになっている。

 もうちょっと高度なことにも挑戦する。読んだ後、思わずお手伝いをさせてあげたくなっちゃう絵本は『そおっとそおっとね』(たんじあきこ作 ほるぷ出版②)。女の子が大事に大事にショートケーキを運ぶ危なっかしさと、真剣な様子は、2歳の子の愛らしさそのものだ。そのやる気、失敗込みで見守ってあげなくてはね。ぬいぐるみやおもちゃにお布団をかけてあげることができるのは、しかけ絵本『おやすみなさい』(新井洋行作 童心社)。案外、お世話も上手にこなす2歳。ここでも大事なのは満足感だ。


『そおっとそおっとね』"
『そおっとそおっとね』
たんじあきこ作 ほるぷ出版


想像力に驚く

 言葉が爆発する直前、まだおしゃべりをする前の子が、読んでもらう言葉にうなずき、何かをもごもご言い、絵本の中の真似をする。ページをめくる前にはドキドキした顔を見せ、めくると一緒に笑い出す。こんな様子を見ていると、言葉を覚えている子も覚える前の子も、同じように絵本を楽しんでいることがよくわかる。つまりこの頃になると、確実に自分の中の想像力で絵本の世界を広げていく力がついてきているのだ。

 例えば、『なにをたべてきたの?』(岸田衿子文 長野博一絵 佼成出版社③)というロングセラー絵本。しろぶたくんが食べた果物が、次々に色のついた丸となってお腹にあらわれる。この不思議な現象を、詳しく説明している場面はない。ところがレビューを読むと、多くの2歳の子どもたちが、素直に理解しているようなのだ。りんごを食べたから、赤い丸。メロンを食べたから緑の丸。石けんを口にしたら、泡がぶくぶくたって……さて、どうなったのでしょう。この絵本には、説明がないかわりに、正確な答えもない。驚くほど余白がたっぷり用意されている。その余白を見ながら、しろぶたくんと一緒に果物を味わったり、驚いたり、次の展開を考えてみたりするのだ。そうやって、少しずつ自分で物語を進めていくことができるようになるのだろう。私たち大人は、もう少し2歳の子にゆだねてみてもいいのかもしれない。


『なにをたべてきたの?』"
『なにをたべてきたの?』
岸田衿子文 長野博一絵 佼成出版社


 怖い絵本のはずなのに、発売から50年経った今も、小さな子どもたちに大人気なのが『ねないこだれだ』(せなけいこ作・絵 福音館書店)。おばけだから泣き出してしまうのでは? 連れていかれちゃうなんて、トラウマになってしまうのでは? そんな心配をよそに、子どもたちは思い思いに想像をめぐらせ、この絵本を存分に楽しんでいる。ある子はおばけをお友だちとして、あるいは遊び相手として。おばけは怖いけれど、何回でも読みたがる子もいたりして。「怖いけど、好き」、そんなスリリングな感情の味わい方をすでに覚えているのである。

 夜の動物園で、見回りをする警備員のおじさんの後ろにぞろぞろ付いていき、部屋まで押しかけ、一緒にふとんにもぐり込んでしまうお話『おやすみゴリラくん』(ペギー・ラスマン作 いとうひろし訳 徳間書店)を読んでいると、子どもたちは実に嬉しそうに笑う。声が聞こえないように、ちょっと口を押さえたり、しーっと人差し指を立ててみたり。つまり、この子たちはおじさんにバレていないから面白いのだとわかっている。絵本との共犯関係を、直感で楽しんでしまっているのだ。それは、今までの絵本の読み方とは明らかに変わってきている証拠。大人はそれを見逃さないように察知し、思わず出てきた言葉や反応を丁寧に拾ってあげることが大切になってくる。彼らはもう、お話の世界の入り口に立っているのだ。

意外と冷静?

 さて、イヤイヤ期の代表作といえば『いやだいやだ』(せなけいこ作・絵 福音館書店④)。そして『ぞうちゃんの いやいや』(三浦太郎作 講談社)という可愛い絵本もある。イヤイヤ期真っ盛りの子どもたちはこういった絵本とどう触れるのかと思っていると、案外ケタケタ笑いながら読んでいるという話。「いやいや」というセリフを嬉しそうに真似したり、「困った子ね」とでもいうような表情をしてみたり。他の子の「いやいや」は滑稽に見えるのだろう。なんだか2歳って、たくましくて奥深い。次は3歳。だけれどその前に、次回は「0、1、2歳と絵本」を改めてふりかえり。お楽しみに!


『いやだいやだ』"
『いやだいやだ』
せなけいこ作・絵 福音館書店


★いそざき・そのこ 絵本情報サイト「絵本ナビ」の編集長として、おすすめ絵本の紹介、絵本ナビコンテンツページの企画制作などを行うほか、各種メディアで「絵本」「親子」をキーワードとした情報を発信。著書に『ママの心に寄りそう絵本たち』(自由国民社)。

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