日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私がつくった本67
童心社 中山佳織

(月刊「こどもの本」2015年10月号より)
五味太郎 「きをつけて」シリーズ(全3巻)

五味太郎 「きをつけて」シリーズ(全3巻)
五味太郎/さく
2015年6月刊行

 私の子どもの頃の愛読書は五味太郎さんの作品でした。『ことわざ絵本』(岩崎書店)はいつもリビングの見える所に置いてあって、すり切れるまで読んでいたそうです。
 さてそんな私に、「できたよ」と五味太郎さんが見せて下さったのは、「きをつけて」というタイトルの、小さなトラックと大きなトラックのお話でした。小さなトラックが大きいのを追いこして、ぐんぐん行きます。行く手には坂やトンネルが……大丈夫かしら? 「きをつけて」と大きなトラックが声をかけます。さて、2台はどこへ行くのでしょう?
 小さいトラックを見守る温かな愛情や気づかいが、素直に心に届くお話です。シンプルですが、子どもも大人も年齢を問わず楽しめる、五味さんならではの世界がページの中に息づいています。感動して舞い上がっている私に「ちがう主人公でもう2つほど考えている」と五味さん。すぐに「きをつけて」シリーズ3冊の同時刊行が決まりました。
 トラックの次はひこうき、その次はふね。小さな乗り物が元気よく出かけていくというお話です。
『きをつけて2』は、主人公のひこうきが行く手に現れる木や山にぶつかって、機体を汚します。周りのビルが心配そうに「きをつけて」と声をかけます。何度か読み返すと、周囲が見守ってくれるからこそ、ひこうきは思いっきりぶつかったり汚したりできるんだなと、微笑ましい気持ちになります。
『きをつけて3』は、ふねが主人公。近くに大きなふねが来ると「(おどろかせないように)きをつけて」、雨がふると「(ぬらさないように)きをつけて」。実は、誰かが小さな主人公に「きをつけて」と言っているのではなく、主人公のふねが「(私が通るから、邪魔しないように)きをつけて」と言って回っているお話です。何回か読むうちにそれに気づき、このふねの、ちょっと小生意気な愛らしい性格に頬がゆるみました。
 このように3冊ちょっとずつ様子の違う「きをつけて」が描かれています。五味さんの絵本にときどき登場するこの「きをつけて」という言葉は、まさに愛する者への気づかいの言葉のようです。声をかけたほうも何となく安心するし、かけられたほうも「気にしてくれているんだなア」と何だか嬉しい気持ちになります。
 五味さんは言います。「子どもは子どもなりに、大人は大人なりに、いろいろと気になります。そこが人生楽しいところ、そこが世の中難しいところ。そこでちょっと声をかけあいます。とりあえず『きをつけて』と。」
 百聞は一見に如かず、ぜひお手に取ってご覧下さい。「きをつけて」と声をかけたい大切な人へのプレゼントにも最適です。