日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『たくさんのたくさんのたくさんのひつじ』 のはなはるか

(月刊「こどもの本」2015年9月号より)
のはな はるかさん

風が吹く先へ

 いつも歩く道に、気づけばタンポポが咲いている。いったい、いつの間に、それにどこから? じっくりと見てみても答えは返ってこない。
 数日後、黄色かった花は、真っ白な綿毛になっている。小さな種たちは、風が吹くと静かに空に舞い、旅立っていった。
 どこへ行くかもわからない風任せで、旅に出てしまうすごいヤツ。いいなあ、追いかけてどこへ行くのか知りたいなあ。けっこう真剣に思った。ついていこうとしてみたこともある。でも、綿毛って小さくって、目で追いかけるにも限度があるんですよね。
 調べてみたら、綿毛は数キロメートルしか飛ばないそうだが、人生なにが起きるかわからない。そんな気なしに、もっと遠くに行っちゃった綿毛だっているだろう。私たちだって同じだ。ぽーん、と今いるところから飛び出して、どこまでだって行けてしまう。
『たくさんのたくさんのたくさんのひつじ』は、一冊の中に約八〇〇〇匹のヒツジが登場する。名前もなければ、見た目も同じ。もこもこの集団をまとめる主人公もいない。
 だけど、ある日飛んできた綿毛がどこへ行くのか気になって、柵を飛びこえて、どこまでも旅をする。そこで出会う、色んな動物、様々な場所。旅の途中でフクロウに本をもらったり、作ったマフラーをペンギンにあげたり、拾ったヤシの実を落としてきたり…。ページを追うごとに、ヒツジたち一匹ずつにストーリーができていく。
 この世界だって主人公はいない。でも同時に誰もが主人公で、一人ずつに物語を持っている。色んな人や物と出会うことで、人生はできていくのかも。
 いっぽう綿毛は、しぜんと地面に落ち、花を咲かせ、また綿毛になって空へ舞う。命の循環は、ずっと続いてく。途方もない先まで。
 どうやらこの世界は、飛び出したら、ずいぶん遠くまでいけて、色んなものに出会えるみたい。小さな無数の命は、どこかで確かに息をして、各々の物語を生きている。私も、そしてあなたも。
 さあ、たくさんのヒツジと一緒に旅に出てみませんか。

(のはな はるか)●本書が初めての絵本。

『たくさんのたくさんのたくさんのひつじ』
ひさかたチャイルド
『たくさんのたくさんのたくさんのひつじ』
のはなはるか・作
本体1,300円