日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『オガサワラオオコウモリ 森をつくる』 有川美紀子

(月刊「こどもの本」2012年1月号より)
有川美紀子さん

小笠原を扉に、いのちのつながりに気づいてほしい

「オオコウモリが羽ばたく音は、どう表現するべきか!?」本書の冒頭、その音を記すために、もう一人の著者と千キロ隔て(私は横浜、鈴木氏は小笠原諸島在住)、一時間もの長電話。

 最初、悩みはしたが非常に安易に「バサバサ」と表現したら、「バサバサっていうのは鳥の羽の音で、皮膚が伸びて薄くなった膜であるオオコウモリの翼はそんな音ではない」という。いわれてみればそうだ。確かにバサバサというより、あれはもっとやわらかく……、どこかで聞いたような……。

 思い立って玄関へ行き、いちばん大きな傘を広げて上下に振ってみる。夜中の一時に何度も傘を振る。似てる……でも違う……だけど、絶対どこかで聞いた……。

 結果がどうなったかは、本をご覧いただきたい。本書は一事が万事、そんな調子だった。一行について三〇分や一時間話すのは当たり前、お互いの島への思いや自然観、生きてきたバックボーンにまで及び激しく議論した。鈴木氏は、早朝船で出発し無人島へ行き、灼熱地獄の下で生物調査をおこない、夕方戻ってからオオコウモリがやってきたという農家の畑に出向き、夜の会議を経て、夜中に報告書を書く……というような日々を送っているが、そういう行動よりもおそらく、私との電話のほうが消耗したと思う。

 そのかいあって、世界でただ一つの素晴らしい本になった!と(図々しくも)自負している。二人とも、次世代を担う子どもたちに「こんな生きものがいるのはどうしてだろう? どんな意味があるんだろう?」ということを伝えたい、それが原動力だった。

 本書を手にした子どもたちは、まずオオコウモリや小笠原諸島に興味をもつだろう。だが、実は自分の足下にいるアリや目の前を飛ぶスズメも、あと三〇〇頭しかいないオオコウモリと同じように、いのちのつながりの大事な一員である。

 本書を扉として、いのちのつながり、生態系へと子どもたちが目を向けてくれたらこれに勝る喜びはない。

(ありかわ・みきこ)●既刊に『小笠原自然観察ガイド』、共著に「みんなで出かけよう! 私たちの社会科見学」シリーズなど。

「オガサワラオオコウモリ 森をつくる」
小峰書店
つながってるよ いのちのWA!
『オガサワラオオコウモリ 森をつくる』
有川美紀子 鈴木 創・文と写真
本体1,400円