日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『丘の木ものがたり』 森山 京

(月刊「こどもの本」2012年1月号より)
森山 京さん

丘の木のあるところ

 町はずれの丘の上に立つ、一本のカシの大木。町のだれもが愛してやまない通称「丘の木」が、突然人手にわたり、伐られそうになる。物語の主人公きつねのコンチとぶたのトントにとっても、大好きな遊び場を失いかねない一大事。そんな折も折、コンチの小さな嘘がきっかけで、二ひきは見も知らぬくまのおじさんと知り合う。

 じつは、このくまさんこそが、丘の木を手に入れようとしている大金持の実業家。ジーパン姿でバイクを乗りまわし、謎めいた行動で周囲を驚かす。くまさんのお目当ては当初丘の木一本だけだったが、この木に寄せる住民たちの深い思いを知るや、急ぎ計画を変更。ホテルを建てるという名目で、丘の木を広い土地ごと買い占める。いつ伐ろうと何に使おうと、くまさんの意のままになるという目論見なのだ。

 一見、丘の木の存亡をめぐる物語ではあるものの、見どころは別にもある。その展開につきまとう、いくつもの嘘の登場である。五ひき(コンチ、トント、トントの母親、その友人、くまさん)による大小さまざまの嘘が、入れかわり立ちかわり顔を出してくる。それぞれの嘘に直接的なつながりはないものの、丘の木をめぐって、からみ合い、まじり合いながら、話の進行にかかわっていく。

 その中には、心ならずもついた嘘もあれば、嘘とは知らずについた嘘もある。面白半分のふざけた嘘やら、芝居がかった手のこんだ嘘やら。子どもの嘘あり、おとなの嘘あり。とびきりの大嘘つきは、丘の木の持主となったくまさんにつきよう。かくて、てんでんばらばらの嘘は、かさなり合いながら丘の木にゆきつき、物語の幕切れへと近づく。

 はたして嘘のゆくえは。丘の木は伐られてしまうのか。くまさんがそんなにも欲しがる理由とは? それらのすべては最終場面、夏の午後の丘の木の下で明らかにされる。小学生の読者たちが謎ときを気にしながら、ぐいぐいひきつけられて読んでくださることを願っている。

(もりやま・みやこ)●既刊に『まねやのオイラ旅ねこ道中』『おとうとねずみチロのはなし』『みずたまり』など多数。

「丘の木ものがたり」
講談社
『丘の木ものがたり』
森山 京・作 ふくざわゆみこ・絵
本体1,300円