日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『ジャガーとのやくそく』 美馬しょうこ

(月刊「こどもの本」2015年6月号より)
美馬しょうこ

ジャガーがぼくに勇気をくれた

「ぼくらのための場所を見つけるよ」父親に連れられて通ったブロンクス動物園の大型ネコ科動物の檻の前で、繰り返し動物たちに語りかけていた─本作品の作者、アラン・ラビノヴィッツは、インタビューでそう話している。

 吃音を持つアランには、はじめの一言が出にくいという症状があり、子どもの頃は発声時には体をくねらせたり、自分の手に鉛筆を刺したりしていたそうだ。知的障害と思われ、特別支援のクラスにいれられたアランは、その後訓練や努力を重ね、動物の研究家となり、現在はジャガーをはじめとする野生動物の保護を訴えている。

 今アランは、吃音を自分の「才能」と呼び、このおかげで現在の自分があると言う。思い通りにすらすらと話せなかったからこそ、ことばを持たない動物たちに共感し、彼らのために何かしたいと思うようになった。無意識で繰り返していた冒頭のことばが、アランの道を作ってきたのだ。

 同じように、自閉症であるテンプル・グランディンは、自らの脳の特性を生かして動物の気持ちを読み取り、家畜施設の設計を行うなど、学者としても成功した。また、拙訳絵本『わたしのすてきなたびする目』の作者、ジェニー・スー・コステキ=ショーも、斜視と弱視のおかげで、人と違った見方ができ、だからこそ芸術家になれたと作品の中で述べている。彼らの生き方は、困難を障害ととらえるのではなく、自分の味方につけ、才能に変えることが幸せにつながると教えてくれる。

 アランは、吃音を持つ人にこうアドバイスしている。幸せをもたらすような、情熱を注げる何かを見つけよう。そしてその道をつき進もう。吃音があるからこそ感じられることを感じ、もっといきいきと生き、どもっていなかった自分にはできないことを成し遂げよう、と。

 どんな人にだって困難や苦手、短所はある。だが、それを乗り越えることで花開く道がある。どうか、この作品が少しでも多くの子どもたちに明るい光を与えられますように。

(みま・しょうこ)●既訳書に『わたしのすてきなたびする目』『魔法のとびら』『カーズ2のなかまたち100』など。

『ジャガーとのやくそく』
あかね書房
『ジャガーとのやくそく』
アラン・ラビノヴィッツ・作
カティア・チエン・絵
美馬しょうこ・訳
本体1,400円