日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私がつくった本64
大日本絵画 三田佳代子

(月刊「こどもの本」2015年6月号より)
ふしぎの国のアリス

ふしぎの国のアリス
ルイス・キャロル/作、グラハム・ベイカー=スミス/絵
2015年夏刊行予定

 ひとりの少女がひょんなことから1匹のウサギを追いかけていき、いつしかウサギの穴に落ちてしまうと、そこに待っていたのは世にも奇想天外な夢物語、といえば、みなさんよくご存じのルイス・キャロルによる『ふしぎの国のアリス』ですが、今年2015年は記念すべき刊行150周年を迎えるそうです。

 関連の本を出版している各社のみならず、今年はこの節目を記念してアリス関連のキャンペーンがいろいろと展開されることと思います。

 今回ご紹介する作品は、イギリスのウォーカーブックス社からアニバーサリー版として刊行された、同名の飛び出すパノラマ絵本です。手のひらサイズの小さな本ですが、広げると横幅1・3メートルにも伸びるじゃばら式となっていて、そのそれぞれのページに『ふしぎの国のアリス』に登場する象徴的な10のシーンが描かれています。

 はじめてこの原書を手にしたときは、こんな小さな本でアリスの世界が描き出せるのかしらと、それこそ「ふしぎに」思いました。

 ところが、ひとたびページをめくると考えは一変しました。ひとつひとつのイラストが見事にアリスのあの世界観を再現していたからです。

 そのイラストは、グラハム・ベイカー=スミスによるものですが、彼は1年のうちでイギリスで出版された絵本の中で特に優れた画家に贈られるケイト・グリーナウェイ賞を受賞しているというから納得です。

 さらに、英国ロイヤルメールが発行した『ふしぎの国のアリス』刊行150周年記念切手セットのデザインとなったイラストをもとに制作された本だというのですから素敵に仕上がっているわけです。

 繊細でありながら勢いを感じさせる線に、上品な色で彩られたイラストは、私たちが子どものころにワクワクして読んだ『ふしぎの国のアリス』の物語の世界を見事によみがえらせています。

 このような記念版の絵本を手がける光栄を感じつつ、日本語版を仕上げるにあたって特に注意した点は、限られたスペース内で、原文にあるストーリーの訳文をいかに忠実に、かつ魅力的にはめこんでいくか、という点でした。その点は時間をかけてじっくりと取り組み、象徴的な場面のイラストにあった日本語版に仕上がったのではないかと思っています。

 テキストは、原文からおもしろいところを抜粋した形になっているので、アリス初心者には入門書になりますし、熱心なアリスファンにとっては、かばんに入れて持ち歩きたくなるような1冊になるのではないかと思います。スリップケースに入っていますので、ギフトにもおすすめの1冊です。