日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『わたしのひみつ』 石津ちひろ

(月刊「こどもの本」2015年5月号より)
石津ちひろさん

『わたしのひみつ』にまつわる秘密

 娘が小学校に入学してしばらく経った頃のこと。娘をバレエスタジオへ送って行く道すがら、私は娘に何気なくたずねた。
「今日のお昼休みは、誰と遊んだの?」

 すると娘は前を向いたままで、さらりと答えた。

「えーとね……アリさんと遊んだ! みんなは〈タカオニ〉をしてたんだけど、今日は私のこと入れてくれなかったから、アリさんの行列を、ずっと見てたの。重そうな食べ物を背中に載せてるアリさんとか、列からはみ出ちゃうアリさんとかいて、面白かったよ!」
と最後には、晴れやかな顔を見せる。

 ふうん、なるほど……私は見解を新たにする。―たったひとりでアリさんと過ごすお昼休みというのも、なかなか貴重だし、ある意味では幸福な体験なのかもしれない、と。

 ほかにも娘と接していると、それまでの思い込みが覆される場面に遭遇することがしばしばあった。

 そう、娘と暮らすうちに、自然の恵みのありがたさや、人がほんとうに大切にしなければならないものをたくさん教えてもらったのである。

 そうしたもろもろのことを、―心の機微をすべて汲み取ってくださる、繊細さを持ち合わせた、童心社のSさんと話す機会があった。二人で話し合ううちに、こうした〈思い〉を絵本の形にしましょう……ということになった。と同時に、絵はぜひ、きくちちきさんにお願いしたい!……という点で、意見が一致した。

 なおSさんは、絵本が出来上がる前に産休に入り、後輩のNさんがきちんと仕事を引き継いでくださった。そして、Sさんのお子さんとほぼ同じ頃に、絵本は無事に誕生した。

 出来上がった絵本を初めて開いたのは、香川県での講演会場においてだった。人前であるにもかかわらず、ちきさんの描く世界の、あまりの純粋さとのびやかさに、ページを繰りながら、私は思わず涙してしまう……。

(いしづ・ちひろ)●既刊に『あしたうちにねこがくるの』(ささめやゆき/絵)、『おいし〜い』(くわざわゆうこ/絵)など。

『わたしのひみつ』
童心社
『わたしのひみつ』
石津ちひろ・さく
きくちちき・え
本体1,400円