日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『モーモー村のおくりもの』 堀米 薫

(月刊「こどもの本」2015年5月号より)
堀米薫さん

自然からのおくりもの

 私は宮城県南部で専業農家(和牛肥育&水稲&林業)をしながら、児童文学を書いています。

 単行本でデビューしたばかりの時、家の光協会の子ども向け学習雑誌に、一年間の物語連載をすることになりました。読者の多くは、農家の子どもたち。物語のモチーフは、身近な農業や田舎の世界にしようと決めました。

 非農家出身の私には、農家の暮らしはとても新鮮でした。まず驚いたのは、食べ物も生活用品も、自分で工夫して作りだす、お年寄りたちの知恵です。そして、一年を通して節目に行われる、伝統行事の持つ意味の深さです。

 農業は、自然相手の生業です。人は生身の生き物として、美しさと厳しさを併せ持つ自然に対峙していかなければなりません。牛との暮らしも、病気や難産など、毎日が生死の狭間にあるタフな世界です。

 そんな感動や驚きを、読者と共有したいと思いました。専門的な場面も出てくる物語でしたが、連載中から、岡本順先生の力強い絵に、本当に助けていただきました。

 二〇一一年三月の連載終了と同時に、東日本大震災が発生。津波や原発事故によって多くの人が、深く傷つきました。今こそ、この連載を一冊にまとめる時だと思いました。私が毎日の農業の暮らしや、自然、そしてたくましく生きるお年寄りから力をもらったように、主人公の美咲といっしょに元気になれる本にしたいと、祈りをこめました。

 一方、農業や田舎の世界が、現代の都会の子どもたちに伝わるのか心配でした。それならいっそ、ファンタジーとして読んでもらおうと考えました。すると、自然の神秘性は、ファンタジー世界そのものであることに気づき、楽しく描くことができました。

 編集の生田悠さんから「子どもたちに自信を持って手渡せる本になりました」とメールをいただいた時は、ほっとしました。都会の子どもたち、そして田舎の子どもたちにも、「モーモー村のおくりもの」をたくさん受け取ってほしいと、願っています。

(ほりごめ・かおる)●既刊に『チョコレートと青い空』『命のバトン 津波を生きぬいた奇跡の牛の物語』『林業少年』など。

『モーモー村のおくりもの』
文研出版
『モーモー村のおくりもの』
堀米 薫・作
岡本 順・絵
本体1,200円