日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私がつくった本63
PHP研究所 三輪由衣

(月刊「こどもの本」2015年5月号より)
妖怪 いじわるひょうしき

妖怪 いじわるひょうしき
土屋富士夫/作・絵
2015年1月刊行

 私がはじめて著者から受け取った原画が、『妖怪 いじわるひょうしき』のものでした。事前に産休に入る前任者から原稿、絵のラフを預かり、拝見した時から、とても素敵な幼年童話になりそうだとワクワクしていたものの、原画を受け取った時、その気持ちがさらに高まりました。表情や色が生き生きとしている! 絵が本文と合わさったら、どれだけ素敵な一冊になるだろう! その時の気持ちは、これから先きっと忘れることはないだろう、と思います。

 会社に入って七年目になりますが、昨年夏、児童書局出版部に異動になりました。編集の仕事ははじめてで、何もかもが手探りの状態、教わったことをただひたすら「こなす」状態になっていました。でもその原画を受け取った時に、はじめて「楽しい」と感じました。と同時に、「素敵な一冊にしたい、たくさんの人に読んでほしい」と思いました。 

 そして、今年一月。無事『妖怪 いじわるひょうしき』は出来上がりました。

『妖怪 いじわるひょうしき』は小学校低学年向けの読み物です。ひでくんという主人公が、大好物のカレーライスを食べるために家へ急いで帰るシーンから始まります。そこへ、ひょっこり、「ひょうしき」が現れて、家までの近道を教えてくれます。ひでくんは、その教わった近道を通り、家へ向かうのですが、ひょうしきが教えてくれた道は、近道ではなく、常識が通用しない道だったのです! いろいろなひょうしきたちが出てきますが、彼らのいじわるそうな顔は秀逸です。「ふみきり」にはひげが生えています。そんなひょうしきやふみきりは、実際にはいないけれど、お話の中ではありえる。そして、なんだか本当に実在しそうな気さえしてくるから、不思議です。

 登場するのは、いじわるなひょうしきたちばかりではありません。スーパーヒーローなる「非常口マーク」の中にいる「みどりの人」も登場します。この「非常口マーク」を使用するために、念のため、マークの考案者の方に、原稿をご覧いただいたのですが、「非常口マークが案内する先は行き止まりであってはならない」などの示唆をいただき、お話の世界を崩さず、かつ、「非常口マーク」の意味を損なわないようにする、ということに非常に苦労しました。しかし、「非常口マーク」は、最終的にはひでくんを助けてくれるスーパーヒーローであり、もしもの時に道しるべになるということの意味をうまく盛り込むこともできたと思います。

 四苦八苦しましたが、最初に感じたワクワク感どおり、『妖怪 いじわるひょうしき』は素敵な一冊に仕上がりました。たくさんの子どもたちがこの本を読んで、「おもしろい!」と思ってくれたら、こんなにうれしいことはありません。