日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『ドングリを巡る旅』 コマヤスカン

(月刊「こどもの本」2015年4月号より)
コマヤスカンさん

ドングリを巡る旅

 もう十五年以上も前のことです。その頃、私は山登りに夢中になっていて、暇さえあれば友人と近場の山へ出かけていました。それで、三重県と奈良県の県境にある(と言えば、相当山深いと想像いただけると思いますが)大台ケ原山に登ったときのこと、友人がなにかを拾い、私に見せてくれました。

「これ、トチノミだよ」

 実は、そのときまで私はトチノミを見た記憶がありませんでした。栗ほどには大きくないものの、黒くて丸い堂々たる姿。トチノミが私の心の中に大切にしまわれたのでした。

 時が流れて、絵本作家を目指す決意を固め、山登りも封印してしまったとき、ふと浮かんできたのが、そのトチノミでした。

 そこで、トチノミを主人公に、なんとなくドングリのキャラクターを描いていたら、中世ヨーロッパの騎士のようないでたちになり、「ドングリ・マーチ」も高らかに勝手に旅を始めました。「焼けてしまった火山島の緑を、ぼくたちが再生する」というのです。

 ところが、あらためてドングリの図鑑を調べてみても、トチノミは出てきません。「あんなに立派なドングリがなぜ載っていないのか」。木の実の図鑑をひもといてみれば「ドングリはブナ科の殻斗を持つ果実」とのこと。トチノキはトチノキ(ムクロジ)科! しかし「(トチノミが)ドングリとよばれることもある」との記述も…。

 うーむ。何はともあれ、クルミもカエデも、ギンナンも、木の実が集まって旅をすれば、「ドングリ、ドングラ〜」。ドングリたちの旅は、もう引き返すことはないのでした。

 さて、私の家の近所の里山では、毎年秋になると、ドングリがいっぱい地べたに落ちます。でも、獣に食べられたり、虫がついたり、そのまま腐ってしまったりと、なかなか一本の木には育たないようです。この絵本のドングリたちも、さまざまな苦難に見舞われながら、勇気を集めて前に進みます。

 読者の皆さんにも、思い思いにその旅にご一緒いただければ幸いです。

コマヤスカン●既刊に『あっぱれ! てるてる王子』『新幹線のたび〜はやぶさ・のぞみ・さくらで日本縦断〜』など。

「ドングリ・ドングラ」
くもん出版
『ドングリ・ドングラ』
コマヤスカン・作
本体1,200円