日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『おてつだいの絵本』 辰巳 渚

(月刊「こどもの本」2015年2月号より)
辰巳渚さん

お手伝いで豊かな日々を

 私は、このところずっと「お手伝いは生きる力を育む」というメッセージを、本をはじめ、さまざまな場で伝える活動をしています。「お手伝い塾」という親子の体験の場、幼稚園から高校までの親御さん向けの講演会など、全国に出向いていますが、この数年で、とくに「お手伝い」への関心が高くなっていることを感じます。

 新学習指導要領の中心にも据えられている「生きる力」は、日々の生活や家族関係の体験から育まれる。勉強だけしていても、この厳しい時代を生き抜く力が備わるものではない。そんな感覚が親には広まっているようです。

 とはいえ、親として具体的に何をさせればいいのかは、誰も教えてくれません。それに、幼稚園や学校ではお手伝いの宿題も出ます。宿題に出るからには大切なことなのだろうけれど、さて、親としては戸惑いもするわけです。いまの親世代は、すでに核家族化と都市化のなかで育っています。自分がしてこなかったから、どう伝えればいいかわからないのでしょう。

 今回、出版した絵本は、そんな親と子どもがいっしょに読みながら、「こうやればいいんだね」と楽しみながらやってみたくなるように、と工夫しました。親との日々の暮らしの中で、とにかく手と身体を動かし、自分のことを自分でし、家族の役に立つことで、たくさんの「生きる力」のモトが、子どものなかに育まれるのだと思います。

 私は、多くの親御さんからお手伝いの教え方をきかれますが、質問には必ずこう答えます。家庭は、学校の授業とは違います。「みそ汁の作り方」を材料の準備から始めて完成するまで、一気に教えなくてもいいんです。親の手がふさがっているとき、「かつおぶしをこしてちょうだい」と頼む。宅配便が来て、途中で台所を離れるとき、「お願い、おみそを入れて、味をみておいて」と頼む。親が誰かの手をあてにしたいときに、断片でいいから頼めばいい。すると五年十年経つ中で、自然に作り方が身についています、と。

 この絵本が、親子の豊かな日々の第一歩になることを願っています。

(たつみ・なぎさ)●既刊に「マイルール自立のすすめ」シリーズ(全5巻)、『片づけられない親のための幸せの生前整理』など。

「しゅくだいさかあがり」
金の星社
『おてつだいの絵本』
辰巳 渚・作
すみもとななみ・絵
本体1,400円