こどもの本

私がつくった本59
平凡社 三沢秀次

(月刊「こどもの本」2014年12月号より)
わたしの木、こころの木

わたしの木、こころの木
いせひでこ/絵・文
2014年7月刊行

 楽しいことは重なるものかもしれません。

 年初、いせひでこさんと浜田山の駅前の喫茶店で、フランスの作家ジル・バシュレさんの『不思議の国のシロウサギかあさん』の翻訳原稿のやりとりがひと段落したときのことでした。

「一年間の連載の原稿にメドがついてきたの。見ていただいてたっけ、木のおはなし。夏に原画展が決まっていて、でも来年もあるから急いでいるわけではないけど、本になるといいなと思っていて……」

 連載は月刊誌『婦人之友』で、「わたしの木、こころの木」のタイトル。3・11の大地震の後の大津波で、宮城県亘理吉田浜に流れ着いたクロマツが第一回。根こそぎになったクロマツの根の裏側、広い野原に横たわる一本の木と人物、幹にまたがる女の子の三枚の水彩画で構成される四頁の連載。季節を追ってサクラ、ケヤキ、木もれ日、アカシア、どんぐり、ヤドリギ、ブナ……とつながり、最終回は一年後のクロマツで結ぶ連作でした。

 一回ごとの文章も木のつぶやき、子どもの会話、追想、ファンタジー、童話、心象風景、エッセイと多様。木、葉、幹、根は言うにおよばず、子どもやお年寄り、鳥やクマ、タヌキなど多彩な登場人物と、いせさん独自の風や空や光や陰が描かれていました。

 いせさんの創作のエッセンスとも原石ともいえるような、輝きやおかしみや悲しみやさびしさや明るさがあふれていました。

 いせさんの希望は「片頁で始まる四頁の連載なので、三つの見開きで構成できると……」ということでした。う~ん、ままよ、と文字だけ三行の頁を作ったりして絵と文を構成し、四頁を六頁にして、本文七二頁、前付後付合わせて八〇頁の、絵本とも詩画集とも画文集ともいえる本となりました。前任者から引き継いでの、初めてのいせさんとの本づくりでしたので、お互い、探り探りのやりとりでした。

 連載は横組みの文章でしたが、本にするにあたり、縦組みを基本に考えました。文字だけを拾っていくと、とくに幼い子どもたちの独白的な文章や、動物や木のつぶやきを読むと、少し整理したほうがいいように思える箇所もありました。そうお話しすると、いせさんはうなずきながらも、「でもね、ちょっとたどたどしい感じがするのが、私らしいので、ここはこのままでいいと思うの」と、一語一語を声に出して読みながら、ことばを決めていきました。

「雪どけの五月、/わたしの上に/わたしの下に/お空をみつけた」これはいせさんが、水たまりの中に空を見つけた子どものころの発見。いせさんのこころに、ずっと残り、大切にしてきた体験でした。そうした体験の積み重ねが多彩な登場人物たちのことばとして立ちあらわれてきます。二冊続けての刊行になり、楽しい体験を重ねさせていただきました。