日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『らくがきの気もち』 かさいまり

(月刊「こどもの本」2014年12月号より)
かさいまりさん

らくがきの気もち

 そういえば私、らくがきしなくなったなあと、ふと気がついた。子どもの頃は授業中でも、ノートのあいているスペースにびっしりとらくがきしていた。らくがきは、心が楽になって描くから、らくがきかな? 何の気負いもなく計算もなく、心のままに描くらくがき。

 大人になって絵の仕事をしているのに、登場人物や動物の描き方はどうしようとか、カーテンの柄はどうしようとか、ラフの形で描くことはあってもそれは全て仕事の絵につながる描写。

 子どもの頃より今の方が、たくさんの紙にかこまれているのに、どうしてらくがきしなくなったんだろう。何か忘れてきたのかな。幼い子どもの描く絵は、らくがきと同じ気もちで描いているなあ。そう思ったとき、そんな気もちの話をつくりたいと思った。

「きみはぼくだね、ぼくはきみだよ」という言葉が、生まれた。私の絵本づくりは、絵というより一行の文、ひとつの言葉から始まる。言葉を頭の中でころころころがして、その中から一番きらりと光った言葉を拾い出す。うまく拾えたら、たった一言でもうれしくなる。そんな言葉は、言葉が立ってくる。この作品では、男の子の気もちがぬいぐるみのくまに伝わる。そのくまの気もちは、絵の中のくまに向けられる。優しい気もちは伝染する。そこに岡田千晶さんの、あたたかく余韻のある絵が加わり、絵と文が両輪のように、動き出す。絵本の話をつくることは、自分を見つめなおすこと。今、何を考えているか、今、何をしたいのかを問うことにもなる。

 今からでも遅くないかな。らくがき女になってみようかな。らくがき用のノートを買った。でも、ハードカバーの立派な表紙で、中の紙質もとても良いノートを買ってしまったら、なんだか描くのがもったいない気もちになった。何やってるんだろう私。らくがきノートは立派すぎない方がいい。でも、もう年なんだから、いいノートでらくがきしなさいよと私が私に言う。やっぱり、らくがきしよう。ちょっとドキドキして、ノートをひらいた。

かさいまり●既刊に『ぼくとクッキーさよならまたね』『ばあちゃんのおなか』(よしながこうたく/絵)など。

「きみはぼくだね」
ひさかたチャイルド
『きみはぼくだね』
かさいまり・さく
岡田千晶・え
本体1,200円