日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私がつくった本31
ポプラ社 森 彩子

(月刊「こどもの本」2011年12月号より)
あの日、ブルームーンに。

teens' best selections
『あの日、ブルームーンに。』
宮下恵茉/作
カタノトモコ/絵
2011年5月

 「十五歳の女の子の初恋のお話です。森さん、願いが叶う『ブルームーン』ってご存知ですか?」

 宮下恵茉さんに書きあがったばかりの原稿を読ませていただいたときのことを、今でもよく覚えています。二〇〇九年初夏の夜でした。

 物語は主人公・結愛が幼いころ、ラムネのビンを前にして光の中にあるビー玉の美しさに目をうばわれるシーンから始まります。その夜は雨が降っていて、雨粒が私の部屋の窓をタタタタタと叩いていました。その音にいつしかシュワシュワというラムネの炭酸のはじける音が共鳴し、いつしか部屋の中には女子中学生たちの早口なおしゃべりの声が充満していました。結愛が耳にするあずき色の電車が通りすぎる音も、遠くに聞こえていました。

 宮下さんの描く一文一文が痛くて切なくて愛おしくてたまらなかったことを覚えています。今すぐ駈け出して中学生に戻って、炭酸水を飲んだ時のように喉を、胸を焦がしたい!と思ったことも。

 編集者としてというよりあまりに幸運な最初の読者として、原稿を抱きしめながら読んでいました。

 この物語を一冊の本に詰め込んで今を生きる女の子たちへ届けたい!と強く思い、そしてもう叶わないけれど、中学生のころの自分自身にもこの物語を届けたいという思いにも駆られました。すぐに宮下さんに「ぜひ本にさせてください、一人でもたくさんの人にとって宝物になるような本にしましょう!」と熱い気持ちをお伝えしました。宮下さんが特別な想いで描いた結愛の初恋物語を一冊の本にさせていただく……考えるだけでドキドキしました。

 しかし私の編集経験が浅かったこともあり、このすてきな原稿を一体どんな本にしたらよいのか、長い間悩みました。ただ、ずっとその間も思っていたのは、ティーンズ読者に近い、彼女たちにとって等身大の本にしたいということでした。

 あれから丸二年。そんな思いから女の子に大人気のイラストレーター・カタノトモコさんにイラストをお願いしました。物語への想いを完璧に共有してくださったので、ここはぜひ結愛と同じ教室から見える風景を授業中にノートの隅に書くような気持ちで……と、カタノさんにとって初となる鉛筆スケッチの挿画をお願いしました。

 カタノさんに描いていただいた結愛には、初めて書店で会った瞬間に「これってもしかして私かも?」と思わせてくれるパワーが漲っています。炭酸水の似合うまっすぐな瞳の女の子は誰にとっても「あの頃の私」でもあるどこか近しい存在だと思うのです。

 宮下恵茉さんは現在、『あの日、ブルームーンに。』と同じ街が舞台のお話を執筆中です。今度はどんな主人公たちに出会えるのか……未来の読者のみなさん、ぜひ楽しみにしていてください!