日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『いぬのロケット お話を書く』 山本敏子

(月刊「こどもの本」2014年9月号より)
山本敏子さん

「書くことな〜い」なんてことはないのだ

『いぬのロケット お話を書く』を手にすると、まず表紙に描かれた主人公ロケットのカワイサに目を奪われる。しかしカワイサだけの絵本ではもちろんない。内容はなかなか奥深い。

 ロケットは本やことばが大好き。収集したことばを使ってお話を書くことを思いつく。しかし紙を前にしても「お話がなにもうかんでこない」。「ぼく、なにを書いたらいいのかわからない」と小鳥先生に訴える。先生の的確なアドバイスと励まし、さらに書く材料を探しているときに出会ったミミズクとの心温まる交流を通して、ロケットは「かんぺきなお話」を生み出す。

 書くという行為にはいくつかの必要条件がある。読んだり聞いたりという形で、それなりのインプットがなされていること、使える語彙がそれなりにあること、それを土台にして自分と向き合い思考することである。さらにいえば読み手の存在も大きい。読み手を意識することで書く側は想像力をめぐらせ、自己完結してしまう世界ではなく、読み手と共有できる世界を創り出す。書き手と読み手がことばを通してつながるのである。

 この作品でも読み手は重要な働きをしている。小鳥先生はもちろんだがミミズクの存在である。読み手(正確には聞き手)であるミミズクが、最後は一緒にお話を作ってゆく。良き読み手の存在があればこそ、何段階かのプロセスを経てロケットはお話を完成させることができたのである。

 本作では「書く」という行為の本質や過程がストーリー仕立てで具体的に語られている。日常、書く課題を前にした子どもたちがよく口にすることばがある。「書くことな~い」。それを乗り越え、書くことの楽しさや充実感を味わう、そのためのヒントがカワイク提示されているのだ。

 なお本書は「ロケット」シリーズ三部作の第二作として誕生した。第一作では、文字を読めなかったロケットが、本を読む楽しさに目覚めるまでが描かれている。第三作は単語集で、前の二作品で使われた語がまとめられている。

(やまもと・としこ)●既訳書にV・ラハーマン『ママ、お話読んで』、J・シエラ『本、だ〜いすき!』など。

「いぬのロケット お話を書く」
新日本出版社
『いぬのロケット お話を書く』
タッド・ヒルズ・作
山本敏子・訳
本体1,400円