日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私がつくった本56
汐文社 門脇 大

(月刊「こどもの本」2014年7月号より)
世界の女性問題(全3巻)

世界の女性問題(全3巻)
関橋眞理/著
2013年10月〜2014年1月刊行

 ヘイトスピーチなどの問題が世間で取り沙汰されているなか、汐文社でも昨年度から絵本を中心に、何冊かの差別問題を扱った書籍を発刊しています。「世界の女性問題」の企画は、まだそれほど関連の報道が加熱していなかった三年ほど前からスタートしました。一般的に差別問題の書籍を扱うのは、そのジャンルに長けた編集者であることがほとんどでしょう。かつて大人向けの関連書籍を扱った経験があるとはいえ、とりわけ詳しい知識を身につけていなかった私が手掛けるにあたり、主観を捨て、踏み込み過ぎず、事実を並べることに徹しました。同様にこの分野の専門家ではなかった著者と、ひとつひとつのテーマをいちから勉強しながら子どもたちに紹介するというスタイルです。このことは、決して身近とはいえないテーマを子どもに伝えるうえで、一助になったのではないかと思っています。

 不足する知識は監修者を中心に、その道の専門家に補っていただいたのですが、やり取りのなかで、差別問題の根底を見つめ直させられる出来事がたくさんありました。たとえば、世界では誰かの名誉を守るために女性が命を奪われるような事件が数多く起きています。そのある事件を紹介するつもりで原稿をつくり、情報の裏取りをはじめていたところ、写真提供者である教育関係者から掲載にストップが掛かってしまいました。事件はある宗教と密接な関係にあったのですが、性差別を浮かび上がらせることによって特定の宗教への誤解を生み、あらたな差別をつくることにつながるというのです。子どもが関係性を正しく理解することは難しいと判断し、この事件を取り上げることは断念しました。

 また、いわゆる日本軍「慰安婦」問題もこの本で大きく取り上げているのですが、取材した情報提供者のなかに、かなり強固な意見を述べられるかたがいました。私自身はその考えに強く共感できたのですが、ほかの記事と並べてみると、断定的な言い回しが続くことが気になりました。事実は明白に存在するわけですから、押しつけずとも子どもは自らの考えできちんと受け止めるはずです。取材者には編集方針が弱腰であるとお叱りを受けたのですが、子どもたちの受け止めかたまではこの本で誘導したくないと説得し、少し表現を柔らかくしました。

 私の周囲では、出版社や書店に勤める友人たちが昨今の差別問題に対し、立ち上がっています(詳細はフェスブックページ「ヘイトスピーチと排外主義に加担しない出版関係者の会(仮)」参照)。私は差別がはびこることを許さない世の中にするためにもっとも効果的なのは、子どもに小さなころから正しい知識を与えることだと思っていますが、まずはこの本の普及に努めることからはじめたいと思っています。