日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『「赤毛のアン」と花子 翻訳家・村岡花子の物語』 村岡恵理

(月刊「こどもの本」2014年5月号より)
村岡恵理さん

子ども時代に出合ってほしい名作

 NHK朝の連続テレビ小説「花子とアン」の放送が始まった。『赤毛のアン』の原書を戦禍の中で守りぬき翻訳した、村岡花子の半生が描かれている。ドラマの原案は2008年に刊行した『アンのゆりかご 村岡花子の生涯』。そして本書、『「赤毛のアン」と花子 翻訳家・村岡花子の物語』は、子ども向けの伝記として、このたび新たに書き下ろしたものである。物語を通して夢と希望を贈り続けた花子の人生を、子どもたちにも伝えたいと思った。

 子ども向けということで、幼少期から青春時代の親しみやすいエピソードに重点を置いている。文学少女の花子が、やがて自らが本を作る人となり、運命の本と出会っていく過程を描きながら、私自身、本の力を再認識した。知識や情報の伝達の目的だけではない。「本」という小さな箱の中には、関わった人たちの夢や涙や愛が込められている。一冊の本との出合いが、時に人生を変えるほどの大きな力を持つことだってある。私の少女時代には、すでにたくさんの絵本や海外の名作シリーズが出版されていたが、それでも本は特別なものであり、誕生日やクリスマスのプレゼントとして贈られた。読書をする際にも、本を開いたまま伏せたり、本の上を跨いだりすると、ひどく母から叱られたのを覚えている。日常生活の中で「本」は偉くて、大事なものと教えられた。昨今、ゲームやインターネットに凌駕されているが、本とはそういうものだったのだ。

『赤毛のアン』を大人になってから再読して、人生の真理が描かれていることに驚いたという声をよく聞く。特に今回のドラマ化は大人たちの再読の機会となっている。この作品には、読んだ時代や年齢、その時の心情に、作品の方が合わせて応えてくれる懐の深さがある。名作と呼ばれる所以だろう。

 児童書の世界でも名作離れが言われているらしいが、やはり子ども時代に一度は通ってほしい道ではある。出会いがなければ再会もない。本書をきっかけに子どもたちが『赤毛のアン』を手にとってくれたら、それこそ本望である。

(むらおか・えり)●既刊に『アンのゆりかご』『村岡花子と赤毛のアンの世界』『アンを抱きしめて─村岡花子物語』など。

「「赤毛のアン」と花子 翻訳家・村岡花子の物語」
学研マーケティング
『「赤毛のアン」と花子 翻訳家・村岡花子の物語』
村岡恵理・著
本体1,300円