日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私がつくった本54
文研出版 生田 悠

(月刊「こどもの本」2014年4月号より)
ねこの手かします(既刊4冊)

ねこの手かします(既刊4冊)
内田麟太郎/作、川端理絵/絵
2008年6月〜

「きっ手でもいい、まごの手でもいい、ねこの手でもいい、だれかかしてくれー。」

 こう叫んだのは、事件を解決できない警察署長さんです。そして、そんな警察署長さんに、ほんとうにねこの手をかしてくれるお店があるのです。その名も「ねこの手や」。契約書にサインをすると、ねこの手がすっぽんとぬけて……。

 こんなふうに「ねこの手もかりたい」ほどこまっている人を、ほんもののねこの手が助けてくれるおはなしが、幼年童話「ねこの手かします」シリーズには詰まっています。

 ねこの手をかりたい人の事情はさまざま。前述した警察署長さんに、指をけがした手品師、同業者のいじわるに悩むたこやき屋さん……。彼らが「ねこの手や」で、合言葉「ねこじたまんじゅう」を告げると、女主人のたまこさんが、悩みを解決するにふさわしいねこ(の手)を紹介してくれます。あるときは人さし指に、あるときはぬいぐるみに、あるときは絵画の一部になって、ねこの手たちはあざやかな活躍ぶりを見せてくれるのです。

 現在、第四作まで刊行されているこのシリーズですが、私が担当者となったのは第三作『ねこの手かします~たこやきやのまき~』からでした。しかも、第四作目までの文章がすでにできあがっていたため、私に課せられた使命は「絵をもらってくること」。その当時、児童書の世界に足を踏みいれたばかりだった私は、会社から歩くこと十五分、川端理絵さんのご自宅に、文字通り足繁く通いました。思うように絵が集まらず、未熟さを痛感しながらの道のりでしたが、川端さんの入れてくださるカフェオレの美味しさと、当時三歳だったお嬢さんの可愛らしさと、なによりもそのコミカルな絵の面白さに圧倒され、振り返れば楽しく、充実した日々だったように思います。できた本を手に取った瞬間の、じんわりした感動を、私は一生忘れないでしょう。

 現在、「ねこの手かします」シリーズ第五作の制作が進行中です。前作から一年、ついに「ねこの手」シリーズもクライマックスか……? というところなのですが、それまでとは大きくちがう切り口で、読者の皆さまにますます楽しんでいただくことができると思います。どうぞご期待ください。

 ちなみに、作中で私が一番気になるキャラクターは、優秀なセールスマン「ねこやなぎ」です。こまっている人を素早く見抜き、その人に「ねこの手や」のチラシを渡す重要な役割を担うねこなのですが、その背中にかすかに感じられる影がなぜか気になります。今、私がいちばんこまっていることは「朝起きるのがつらい」ですが、そんなことではねこやなぎは来てくれないでしょうか……。