日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私がつくった本53
BL出版 江口和子

(月刊「こどもの本」2014年3月号より)
ちょっとだけまいご

ちょっとだけまいご
クリス・ホートン/作、木坂 涼/訳
2012年10月刊行

 お昼寝のとちゅう、巣から落ちて、まいごになったちびフクロウと、ちびフクロウといっしょになってママをさがしてくれるリスの、可愛い絵本『ちょっとだけまいご』。この原書をはじめて目にしたとき、その美しい色づかいや高いデザイン性に心奪われました。うっとりしながら頁をめくると、ちびフクロウの愛らしいジェスチャーが飛び込んできて、私は、一人笑いをしながら、なんて愛らしいおちびちゃんなんだろうと、ほくほくとあったかい気持ちがふくらんでいきました。

 今では、2013年の第6回MOE絵本屋さん大賞の第5位に選ばれるほど愛されているこの作品ですが、出版にあたって慎重論もありました。スタイリッシュすぎて、受け入れられるのだろうか、という意見です。

 確かに、ほんとうにスタイリッシュです。色彩の鮮やさは一目瞭然ですが、その色の選び方がユニークです。森の木々が赤系の色彩で表され、地面は青系。主人公のフクロウは黒で、頼もしい相棒となってくれるリスはえんじ系です。雑誌「MOE」のインタビューに答えて作者のクリス・ホートンさんは、「どんな仕事でもできるだけシンプルにすることを心がけて」いること、そして「何を残し、何を取り除くかは毎回挑戦です」と言っていますが、残そうと判断しシンプルを極めたものが、このような色と形をとり、クリスさんならではの高いデザイン性のある作品になっているのです。しかし、スタイリッシュであればあるほど、子供たちが受け入れてくれるだろうか、何度も読んでぼろぼろになっても愛される本なのだろうか…、という疑問もありました。

 でも、表紙の、きょとんとした表情のおちびちゃんが、語りかけてきます。「ぼく、まいご。ぼくのそばにきて」と。

 出版が決まったとき、私のなかでは、訳者は木坂涼さんと、ひとり勝手に決めていました。それまで一度もご一緒にお仕事をしたことがない、のにです。木坂さんとは面識がありませんでしたが、ご主人のアーサー・ビナードさんに『ほんとうのサーカス』という絵本を訳していただいたとき、木坂さんとはなんどかお電話で話したことがあり、そのときの印象が、このちびフクロウの可愛さに重なってしまったからなのです。

 いろいろな場のレビューでも書いていただいているように、木坂さんの訳の、なんとすばらしいこと! ちびフクロウを助けてくれるリスは自分を「おいら」と呼び、ちびフクロウのママを「きみのかあちゃん」と言います。なんとも楽しくほほえましく温かいやり取りが交わされます。シンプルでスタイリッシュなクリス・ホートンさんの作品が、木坂訳を得て日本で愛される〝日本の作品〟となりました。