日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『もしもしトンネル』 ひろかわさえこ

(月刊「こどもの本」2013年12月号より)
ひろかわ さえこさん

泣き虫っ子がんばれ!

 最近、子どもの頃のことをよく思い出します。八歳の秋まで住んでいた小樽の街の情景や、通っていた幼稚園の出来事や、周りにいた懐かしい顔。

 私は奇想天外な物語を書く才能には、残念ながら恵まれず…でも、人は人の数だけ違う物語を生きているのだからと、その中から落ち穂を拾うように、絵本の物語を拾ってきています。

 幼児期の私は、本当にすごい泣き虫でした。日に何度も涙を流し、泣きながら食べたご飯の味が、まだ喉の奥にはり付いているような気がします。隣家に、同じ年の女の子がいて、気がついたらずっと一緒にいて、いつもふたりで遊んでいました。近所には、原っぱがあり、子ども同士で日が暮れるまで遊んでいても、危ないことなど起こらなかった時代のことです。

 いつの間にか、私はその子としか遊べない、引っ込み思案の子どもになっていました。彼女が幼稚園を休むと、泣いて泣いて泣き止まずに家に帰された程でした。そんな幼児期の自分と、ふたりの家の間にあった、イチイの木の垣根の思い出が、『もしもしトンネル』の物語のベースになっています。

 時が過ぎて、家の囲いは、ブロック塀が主役になって、植え込みの垣根がずいぶん少なくなってしまいました。 私自身は、泣き虫時代を超えて、ちょっとやそっとでは泣かない時代も超えて、また泣き虫の時代を迎えています。特に、一生懸命頑張っている小さな子の姿など見ると、すぐうるっとしてしまいます。どうしたことでしょう!

 垣根のこっちとあっちで育ちあった、幼なじみの彼女とは、今も文通が続いています。もちろん、出来上がったこの絵本は、彼女へプレゼント。

 数十年の時が流れました。主人公のナナちゃんのお話はまだ続きます。泣き虫は卒業できるのでしょうか? 先日、ちょうどその絵本を描き終えたところです。

 そして、今日は、ほっとしてまんまるお月様の、うさぎを眺めています。

ひろかわ さえこ●既刊に『ぷくちゃんのすてきなぱんつ』『あいうえおのきもち』「ちいさなやさいえほん」シリーズなど。

「もしもしトンネル」
ひさかたチャイルド
『もしもしトンネル』
ひろかわさえこ・作・絵
本体1,200円