日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『えんまのはいしゃ』 二見正直

(月刊「こどもの本」2011年11月号より)
二見正直さん

力をくれた〝おにぎり山〟

 くすのきしげのりさんの書いたこの物語は、表面的には〝笑っちゃう話〟なのですが、注意して読むと深い味わいがあります。作画にあたり、その味わいを生かすため、風合いのある手漉き和紙を使用しました。現在私の住む長野県長和町で購入した手漉き和紙です。町には、三百年の歴史を持つ和紙作りの技術が伝承保存されているのです。

 長和町について少し書いておきます。一年前、私は良質な創作環境・子育て環境を求めて、この地にやって来ました。下見のため初めて訪れたとき、この山あいの町の、両側にぽこぽこと並ぶ〝おにぎり山〟に惹かれました。本当に三角おにぎりの形をした、小さな山々。心をほっとなごませてくれる名もない山々です。こんな山に囲まれて生活したい、と強く感じました。

 山だけでなく、タヌキやキツネがひょっこり現れたり、リスが木々を飛び回っていたり、とにかく自然がいっぱいなのが長和町の魅力です。この大好きな町で、いま私は創作と子育てに励んでいます。

 ところで、私が絵本を描き始めたのはユリ・シュルヴィッツ作『ゆき』に出会ったことがきっかけでした。私は、たった一冊の絵本が持っている力の大きさ、そしてたった一冊の絵本が持ち得る可能性の限りなさを、この本に見ました。作者には『よあけ』という作品もあり、こちらも素晴らしい。

 先日この『よあけ』を読み返していて、新しい発見をしました。湖が物語の中心舞台ですが、背景に山が出てきます。その山が長和町の〝おにぎり山〟にそっくりなのです。同じように心をなごませてくれる味わいのある山です。私はうれしくなりました。大好きな作家が、大好きな町の風景を表現していた…。

『えんまのはいしゃ』は、二種類の〝おにぎり山〟から、たくさん力をいただいて作画することができました。本書が、どなたかの大好きな一冊となることを心から願っています。

(ふたみ・まさなお)●既刊に『もっと おおきな たいほうを』、「おとうさんとぼくのえほん」シリーズ、『いちご電鉄ケーキ線』など。

「えんまのはいしゃ」
偕成社
「えんまのはいしゃ」
くすのきしげのり・作 二見正直・絵
本体1,200円