日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『おとうさんもういっかい たかいたかい』 はたこうしろう

(月刊「こどもの本」2013年9月号より)
はたこうしろうさん

「もういっかい」は、素敵な時間

 うちの子が二歳ぐらいからだろうか、一緒に遊んでいると、よく「もういっかい」コールがかかるようになった。

 しかし何度も言われると「めんどうだなぁ」となる。でも息子は親に有無を言わせないよう間髪入れずに「もういっかい!」。もういっかい、もういっかい、もういっかい─やれやれ、根負けして僕は同じ遊びを繰り返す。

 なんで子どもはこれほどまでに何度も同じことを繰り返すのか。一人遊びでも、穴を掘っては水を入れ、埋める。マンホールの穴に小石を入れて音を聞く。何度も何度も繰り返す。こんな単純なことを繰り返す意味はあるのか?もう少し早く学習しろよと、言いたくなる。ところが、ある日、いつものように息子が小石を穴に入れている時「きのうと音がちがう」と言うのだ。僕はへーっと感心した。さらに同じマンホールで「こっちの穴とこっちの穴で音がちがう」などと言い出す。あの小さな穴の奥から聞こえるかすかな音の違いを聞き取っているなんて。僕にはその違いなんて全くわからなかった。大人から見ると単調な遊びだが、子どもにとっては実はとても豊かで面白い時間なのだ。繰り返し経験することでディテールを見分ける力を身に付けているのだ。

 確かにディテールというのは何度も見ないと見えてこないもので、十回見ても分からなかったものを百回見ると発見するといったものだ。そして、このディテールを感じ、楽しみ、見分ける力こそ世の中を生き抜く上でとても重要なことだと思う。仕事も人間関係も─ということは繰り返しの時間は、最も大切な力を身に付けている時間ということになるではないか。

 子どもの「もういっかい」コールは、面倒なこともあるけれど、子どもと一緒に過ごすことで、ゆっくりで細かい世界を見ることができる。それは子どもの目でもう一度世界を見渡すこと。こんな楽しくて素敵なことをしない手は無い。おとうさん! 仕事なんてちょっと置いといて、子どもと遊ぼう。この本がそのきっかけになってくれたらうれしい。

はたこうしろう●続刊に『おとうさんもういっかい うみあそび』『おとうさんもういっかい ゆうえんち』。

「紙コップのオリオン」
アリス館
『おとうさんもういっかい たかいたかい』
はたこうしろう・作
本体1,000円