日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『マジックアウト3 レヴォルーション』 佐藤まどか

(月刊「こどもの本」2013年9月号より)
佐藤まどかさん

魔法の国から魔法が消えたら

 足かけ五年、『マジックアウト』三部作が、とうとう完結しました。

 最初にこの物語を書こうと思った頃、世界中で魔法の物語がブームでした。

 娘が通っていたイタリアの小さな小学校のクラスは、人種のるつぼでした。コソボの戦争難民やアルバニア難民の子たち、ロシアからの養子、欧州圏内からの移民の子たち。

 ラテン語圏や片親がイタリア人の子は別として、難民の子たちは、言葉のハンディがあります。小学校では落第することはありませんが、中学校では、三年続けて落第してしまうこともあるのです。言葉や宗教の壁を前に、彼らはイタリアの社会に溶け込もうと努力していました。幸い、宗教や習慣の違いがあっても、いじめられることはなかったようですが。彼らの親は、イタリア語が不得意なので、宿題を手伝ってもらえません。文法が複雑なイタリア語が分からないと、他の教科もどんどん遅れてしまいます。そして現実には、残念ながら魔法はありません。なんでも簡単にパッパッと解決するわけにはいかないのです。

 そんな彼らの生活を間近に見ながら、書きたくなったのが、この物語です。

 主人公アニアは、みんなが魔法を持っている国に生まれたのに、魔法を使えない子です。でも、そんな超最先端技術ともいえる魔法の大国で、ある日魔法が全て消えてしまい、パニックになります。そこでアニアが活躍します。魔法が消えた国で役に立つのは、積み上げてきた知識や知恵、ひとつずつ問題を解決していく忍耐力、そして人や自然を愛する心です。

 物語のなかでは、科学技術と人間、差別のない社会、自然との共存、内政や国際関係など、さまざまな問いを投げかけたつもりです。いくら魔法のような最先端技術を持っていても、それを使う善き「心」がなければ、かえってマイナスになりかねません。

『マジックアウト』が、楽しみながらもそんなことを考えるきっかけになってくれれば、幸いです。

(さとう・まどか)●既刊に『てっこう丸はだれでしょう?』『スーパーキッズ最低で最高のボクたち』『カフェ・デ・キリコ』など。

「マジックアウト3 レヴォルーション」
フレーベル館
『マジックアウト3 レヴォルーション』
佐藤まどか・著
丹地陽子・画
本体1,500円