日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『たかちゃんの ぼく、かぜひきたいな』  さこももみ

(月刊「こどもの本」2011年10月号より)
さこ ももみさん

記憶を料理しています

 周囲の証言によれば、私は記憶力が大変良いそうです。ただしこれは、家族や友達の失敗談に限っての話です。相手にとっては痛い思い出を詳細まで覚えているので、同窓会の二次会で友達に「もう(広島に)帰れば?」と言われました。一昨日の晩ご飯は思い出せなかったりしますが。

『たかちゃんの ぼく、かぜひきたいな』の絵本は、編集者さんとの他愛ない雑談から生まれました。お互いの姉妹の思い出話になったのです。二歳年下の妹とはいつも一緒に遊んでいて、けんかもたくさんしましたし、一番身近なライバルでもありました。片方が風邪をひいて寝込んでいると、遊べないのでつまらないし、自分だけ学校に行かなければいけない「不公平感」を感じていたものです。それは妹も同じだったようで、「お姉ちゃんの風邪がうつりたくて、こっそり同じコップをなめた」と告白されたことがありました。私たちは思惑通り、順番に学校を休んで、幸せな時間をひたすら寝て過ごしました。

 母が掃除機を持って部屋に入ってくるとわくわくしました。母は、私が寝ている布団ごと「ズズズーッ」とひっぱって動かし、布団の下を掃除します。終るとまた、「ズズズーッ」とひっぱって、布団をもとの位置に戻します。熱でボーッとした上に、ひきずられて宙に浮いたような感じになりました。なぜか私たちはこれが大好きだったのです。どこの家庭も同じようで、「私も同じようなことをやりました!」と意気投合した勢いで絵本が生まれたのです。(と言ったら怒られますか?)
 
 お話作りは料理に似ているなあと思うことがあります。自分の子どもの頃の記憶と、わが子のそれを引き出しの奥からひっぱり出して、混ぜ合わせ、こね合わせ、調味料を加えて、人前に出せるものに仕上げます。試食とアドバイスをしてくださるのは編集者さんです。みなさんに「美味しい!」と食べていただける絵本ができますように。最後は笑顔になっていただきたい。そんな願いも入っているのです。

(さこ・ももみ)●既刊に「ゆっくとすっく」シリーズなど。「たかちゃん」の続編も準備中。

「プリンセススクール」
佼成出版社 
『たかちゃんの ぼく、かぜひきたいな』
さこ ももみ・さく・え
本体1、300円