日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私がつくった本47
岩崎書店 大塚奈緒

(月刊「こどもの本」2013年8月号より)
フットボール・アカデミー(全6巻・既刊2冊)

『フットボール・アカデミー(全6巻・既刊2冊)』
トム・パーマー/作、石崎洋司/訳、岡本正樹/絵
2013年4月〜

 拙稿をご覧になるころには、サッカー日本代表が最終予選を勝ち抜き、五大会連続でワールドカップ出場権を手にしているのでしょうか。そして来年、また熱い感動をわたしたちに届けてくれるのでしょうか…などと書いていると、ずいぶんサッカー好きな人のようですが、わたしがサッカーにはまったのは、前回南アフリカ大会以降です。心と頭と身体をフルに使ってピッチをかけめぐり、スリリングなゲームを展開し、勝つごとに絆を強めていく選手たちにすっかり魅力されました。

 そんなわたしに巡ってきたのが「フットボール・アカデミー」シリーズという、マンチェスター・ユナイテッドをイメージしていると思われる十二歳以下チームの物語です。

 全六巻で、各巻ごとにチームのひとりが主人公になり、違うポジションからの視点によって、サッカーやチーム全体がよくわかる仕掛けになっています。

 一巻の主人公はジェイク。プロのサッカー選手を目指している彼は地元ではピカイチの才能を誇りますが、背が低いのが泣き所。ユナイテッドの門を叩き、見事に入団を果たしますが、なかなかチームになじめず、キャプテンにはいじめられ…と苦労をします。それでもやがて自分らしさを取り戻して、チームの主軸となっていく過程が描かれています。

 名門チームに入る子どもをわたしはある意味、色眼鏡で見ていたことを反省しました。みんな家族が熱心で協力的で、それなりに財力もあり、能力が高く、恵まれた子どもたちなんだろうと思っていたのです。しかし、選手たちは、親子関係や勉強との両立、人には言えないコンプレックスなどで悩んでいます。時にはもろにぶつかりあうこともあります。一見エリートに見える少年たちにも「事情」があり、楽ではないのが人生なのだ…ということを痛感しました。それでも一人ひとり、親も含めて、サッカーに夢をみているのだと。

 選手たちは様々な思いを抱えながらも、ピッチに出たら、一致団結して、パスをつなぎ、ゴールを決めるように努めます。チームワークなくしてはサッカーでは勝てません。またそれが何よりの魅力なのだということも改めて気づかされました。

 シリーズ刊行にあたり、躍動感あふれるすばらしい翻訳をしてくださった石崎洋司先生は元サッカー少年、画家岡本正樹さんの事務所の社長さんは少年サッカーコーチ、デザイナー山田武さんも元サッカー少年と最強のチームを組んでいます!

 二巻以降も、選手たちは泣き笑いしながら成長していきます。サッカーが好きな人も、特に興味のない人も、サッカーを通じた「人間ドラマ」をぜひ楽しんでいただけたら幸いです。