日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『うちは精肉店』 本橋成一

(月刊「こどもの本」2013年8月号より)
本橋成一さん

いただいて、いかされる

 この写真絵本の舞台になっている北出精肉店は、牛の肥育から屠畜・精肉までを代々営んできた大阪府貝塚市にある家族経営の精肉店です。江戸末期から七代にわたって続けてきた屠畜ですが、時代の流れの中で、北出精肉店での屠畜・解体は、2012年春に幕を閉じました。幸いなことにその最後の屠畜にぼくは立ち会うことができました。

 生きものの「牛」が、わたしたちの日々の「糧」や「太鼓」へと変わっていく。この絵本にはその過程が記録されています。牛舎から屠場まで町内を歩いて連れて行かれる牛。特殊なハンマーで牛を気絶させるその瞬間。家族で助け合う仕事。職人のあざやかなナイフさばきで、分かたれていくいのち。食卓に届けられるお肉。そして、なめされて太鼓へと生まれ変わる皮。

 戦後の焼け跡時代、東京・東中野のぼくの家ではニワトリを飼っていて、卵や肉を食べました。おやじはニワトリを絞める時は餌係だったぼくを必ず手伝わせました。屠(ほふ)る時はやっぱり悲しかったけれど、羽をむしり解体を手伝ううちに、その日の夕食に出される何日かぶりの肉料理を想像するとその気持ちは嬉しさに変わっていきました。あの時代は生きものとして、食としてのいのちのつながりが見えていました。

 近代化された豚や牛の屠場では直接ひとの手をかけず、機械や電気やガスを使い屠畜しています。それはまるで工場のような施設です。こうして合理化され、管理された結果、生きものたちの生と死がベールに包まれ、隠されてしまいました。その結果として、ぼくたちがいのちをいただいて、いかされているという当たり前のことを忘れることになってしまったのではないでしょうか。

 写真は表紙以外すべてモノクロです。それは見る人にいろんなことを想像してもらいたい、というぼくの思いがあるからです。食べものはどのようにして、どこからくるのでしょうか。そんなことを話しながら、読んでいただければうれしいです。

(もとはし・せいいち)●写真家、映画監督。既刊に『ナージャの村』『アレクセイと泉』『屠場〈とば〉』など。

「うちは精肉店」
農文協
『うちは精肉店』
本橋成一・写真と文
本体1,600円