日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『いそげ!へりこぷたー』 水島朝子

(月刊「こどもの本」2013年7月号より)
水島朝子さん

心にも響く言葉のリズム

 高校生になった娘が、十何年も開いていない絵本の一節を口にすることがあります。旅番組を見ていて「こんな風景、あのお話に出てきたね」、ケーキを食べながら「あの本に出てきたケーキがおいしそうだった」、パソコンのカタログを見ながら「タイプライターってどんなものだろうと思ってた」などと言いながら……。小さい頃に慣れ親しんだものは、大きくなってからも、ふとした折に顔を出すものだと、びっくりさせられます。娘の口から飛び出す懐かしのフレーズは、たいていリズムや響きがよいのです。リズムや響きのよさは、心にも響いて記憶に残るということでしょうか。そんなことから、言葉のリズムや響きの大切さを感じています。

 本書『いそげ! へりこぷたー』は「プルバックでゴー!」シリーズの一冊です。ほかに、『てんとうむしのおさんぽ』『クリスマスイブのサンタさん』『ドライブにいこうよ』があります。いずれも同じ作者が文を書いていますが、雰囲気はそれぞれ違います。『てんとうむし』と『サンタさん』はメルヘン、『ドライブ』は、まるで自分のうちのことのよう。本書『いそげ!
へりこぷたー』の舞台は緊急医療の現場で、緊張感があふれます。でも、プルバックのおもちゃが絵本のコースを走るのはシリーズをとおして同じです。

 プルバックを上手に走らせるには、少々コツがあります。ちょうどよい引きぐあいでないと、途中で止まってしまったり、元気がなくなってしまったりします。絵本を置く場所も重要です。小さなお子様には、最初はむずかしいかもしれませんが、気長に見守っておもちゃの動きに合わせて、文を読んであげてください。プルバックが手になじんで、扱いがうまくなる頃には、お話もすっかり覚えてしまうでしょう。

 それくらい、シンプルで、プルバックの動きに合った言葉、そして、リズムと響きのよい言葉を選びました。遊びながら、お気に入りのリズム、お気に入りの響きを見つけていただけたら……と願いをこめて訳しました。

(みずしま・あさこ)●既訳書に『てんとうむしのおさんぽ』『クリスマスイブのサンタさん』『ドライブにいこうよ』など。

「いそげ!へりこぷたー」
大日本絵画
『いそげ!へりこぷたー』
フィオナ・ワット・ぶん
ガブリエーレ・アントニーニ・え
みずしまあさこ・やく
本体2,000円