日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『だっこれっしゃ』 春田香歩

(月刊「こどもの本」2013年5月号より)
春田香歩さん

二十年の時を超えて

 だっだ! しゅっしゅ! 

『だっこれっしゃ』が二十年もの時を超えて走りはじめました。

 二十年前、働きながらの子育て真っ最中。わたしは絵本づくりにも夢中でした。毎夜、子どもを寝かしつけてから、こっくりこっくりやりながら、手作り絵本に挑戦していました。その頃に生まれたのがこの『だっこれっしゃ』です。

 でも、その頃は、だっこれっしゃを今のように快適に走らせることができませんでした。決定的な構成力不足。「あと一歩のところ」なのはわかるのだけど、その先がむずかしい。お話の運びがどうもうまくいかない。そのうち生活がどう! と押し寄せてきました。「絵本はちょっと保留かなあ……」 時を同じくしてわたしは勤めを辞め、草木染めの仕事を始めました。魅力的な色の世界を展開してくれる草木染めもまた、不思議で楽しくてはまってしまいます。それに生活のお金にもなるので、ついつい草木染めの世界の方で楽しんでしまいました。そんなこんなで「あらまっ!」の二十年です。

 その間『だっこれっしゃ』は、いつも自分の傍らにありました。保留のまんま。無念にもやり残したものは自分の片割れのよう。そして常に「いつか決着をつけてよ」と囁きかけてきます。

 一昨年の暑い夏。突然わたしにも決着の日がきました。もう一度ちゃんと、やり残した自分の何かとつきあわねば、と、バラバラにして再構成です。すると今度は、「おはなしができた」感がやってきました。よくはわかりませんが、これまでの時が助けてくれたように思います。投稿先の編集者がすばらしいアドバイスで方向づけして、運をつないでくださいました。

『だっこれっしゃ』が、小さな人たちにワクワク感や楽しい感覚をいっぱいプレゼントできたらと思います。前向きの生きていく勢いみたいなものをすこしでも染みこませてあげられたらな、と思います。愉快なたのしい子どもらしい子ども時代でありますように!

 わたしはやっと片割れから解放されてほっとしているところです。

(はるた・かほ)●本書がはじめての絵本。

「だっこれっしゃ」
偕成社
『だっこれっしゃ』
春田香歩・文・絵
本体1,000円