日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私がつくった本44
小学館 村松 茂

(月刊「こどもの本」2013年4月号より)
おしりをしりたい

『おしりをしりたい』
鈴木のりたけ/作・絵
2012年11月刊行

 お母さんとお子さんが、二人で書店内をぶらぶら歩いています。突然、お子さんがかけだして、一冊の絵本を手にしました。

「ママ、これ欲しい!」

 その本の表紙には、なんと大きなおしりの絵。

 お母さんは半分あきれて、思いました。

「こどもはなんで、おしりとかが好きなんだろう?こどもの目を引く表紙にしてるけど、どうせ中身もおふざけで、大したことないんでしょ。」

 でも、こどもが欲しいというのをむげにも出来ないので、一応手にとります。そこで、オビの言葉が飛び込んできました。

「なぜおしりはプリプリしてるの?」

 そんなこと、突然いわれても。咄嗟には答えは出てきません。でもなぜなんだろ? 裏表紙も見ました。

「おもしろくてためになるおしりのおはなし」

 ためになる? こうなると、もう中味を確かめずにはいられません。パラパラとページをめくります。そこには、鈴木のりたけさんのあたたかい絵と、思わずクスッとしてしまうユーモアと、そして大人でも知らないおしりのひみつが描いてありました。

「これ、こどもも興味を持っているし、内容もちゃんとした知識が得られるようになってるのね。いい本じゃない。買ってあげよ。」

 そして二人は、その絵本『おしりをしりたい』をもって、レジに向かいましたとさ。ちゃんちゃん。

 以上、私の、「理想の売れ方」の妄想でした。
 

 鈴木のりたけさんの描く絵本の世界は秀逸で、内容には絶対の自信がありました。ただ、テーマはおしりです。表紙を大きなおしりの絵にすることで、こどものつかみはオッケー、あとは大人にいかに拒否感なく、中味を見ていただけるかが大事だと思っていたので、そんな妄想を抱きながら、試行錯誤してオビのコピーを決めました。
 
 
 ほかにも、内容やイラストについて、何回ものりたけさんと打ち合わせをさせていただきました。居酒屋で、カフェで、仕事場で、居酒屋で(あ、二回目!)、真剣におしりの話をする大の男二人は、まわりには奇っ怪にうつったことでしょう。ただ、何回も打ち合わせを重ねるうちに、作品の方向が見えてきたり、ひらめきがあったりしますので、それも編集者の大きな仕事のひとつ、ということにさせてください。

 何はともあれ無事に発売でき、売れ行きも上々で、ただただ喜んでおります。読者のハガキには、絶賛の言葉と一緒に、私の妄想通りに買われていることが複数かかれてあり、心の中でガッツポーズをしながら、次作への活力としている次第でございます。