日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私がつくった本44
くもん出版 堤 嘉代

(月刊「こどもの本」2013年4月号より)
ちいさい わたし

『ちいさい わたし』
かさいまり/さく、おかだちあき/え
2013年2月刊行

 この絵本の原稿を、最初に見せていただいたのは、私自身が、もうすぐ育児休業から復職するころでした。楽しいながらも大変さを実感する子育てのまっただなかに読んだせいもあったのでしょうか。「まだ途中だから。だんだんできるようになるって素敵なことでしょう」と伝わってきて、なんだか自分を応援してもらっているような気がしたことを覚えています。そんなところからスタートした絵本です。

 お話のなかに、ちゃんとご挨拶できなくて、もじもじとママの後ろに隠れてしまう女の子が出てきます。ここを読んで、ふと思いあたったことがありました。マンションで出会った知り合いの女の子が、お母さんに「どうしてご挨拶できないの」と言われて、もじっとしたときのことです。私は、「きょうは言わない気分なんだよね、こんどは言えるもんね」というような言葉をかけていました。よくそんなふうに言うと思うのですが、それは、その子の表情から感じてかけた言葉なのかもしれないと、思いあたったのです。この絵本では、そんな言葉にならない子どもの気持ちが、優しく表現されています。

 かさいまりさんとの絵本作りでは、打ち合わせのたびに、お互いに読み聞かせをします。最初からほぼ完成された文章ですが、声に出すことで、修正されていく部分もあります。適切な量の言葉で、読み手にしっかりと伝わるかさいさんの文章は、こうした丁寧な絵本作りから生まれるのだと思いました。

 おかだちあきさんに絵をお願いできたことは、幸運でした。表参道の画廊で絵を見て、おかださんに名刺をいただいたのが二〇〇九年。それから二〇一〇年にボローニャの絵本原画展で入選されている絵を見て、いいなと思っていた方でした。かさいまりさんとも意見が一致して、原稿を読んでいただきました。そして、見ていてきゅんとなるような女の子を、描いてくださいました。

 女の子のもじもじした顔、怒った顔、安心した笑顔、握りしめた手、決心した後ろ姿など、顔だけでなく、描かれた全身の表情がとても素晴らしく、校正途中で原画に見入ってしまうこともありました。
 
 いろいろな方に、この絵本を読んでいただいたり、ご紹介したりするなかで「うちの子を見ているよう」とか「わたしもこんな子だったな、と自分のちいさいときを思い出した」などの感想をいただきました。また、「子どもだけじゃなくて、人はみんな、まだ途中だよね」という名言(⁉)をおっしゃる方もいて、絵本の持つ「考えさせる力」を、改めて感じる場面もありました。

 素敵な絵本ですので、子どもたちと一緒に、それぞれ自分自身にひきつけて読んでいただけたら嬉しいです。