日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『糸子の体重計』 いとう みく

(月刊「こどもの本」2012年12月号より)
いとう みくさん

子どもの力

 子どもの頃、Bちゃんという女の子がきらいでした。すぐに人の悪口を言うし、「無視しよ!」と仲間はずれをつくるからです。クラスの女の子たちもみんな、そんなBちゃんにびくびくしていました。

 ところがある日、誰かがぼそりとBちゃんへの不満を口にしたことをきっかけに、今度はBちゃんがクラス全員から無視されたのです。

 かわいそうだなんてちっとも思いませんでした。自業自得です。ひとりぽつんといるのを見ると、胸がすく思いでした。

 そうして一ヶ月ほどが過ぎた日曜日。スーパーでBちゃんとおなかの大きなお母さんを見かけました。Bちゃんは荷物をいっぱい持っています。お母さんが持とうとしても、にこにこ笑って離そうとしません。

 学校でのBちゃんとはまるで違います。とても優しい顔をしていました。

 そのとき、どうしようもなく、いたたまれなくなりました。

 翌日、「おはよ」と声をかけました。Bちゃんはにこりともせず、「おはよう」と言いました。それから徐々にBちゃんを無視する空気はうすらいでいきました。気づいたらBちゃんはまた、誰かの悪口を言っているし、意地悪も復活していました。

 かわんない……。Bちゃんが無視されていたほうが平和だったなぁと思いながら、でも、お母さんにやさしいあのBちゃんも、Bちゃんなのです。

 私の子ども時代と同じように、『糸子の体重計』には、かっこいいヒーローやヒロインは登場しません。出てくるのは欠点や傷を抱えて生きているごく普通の小学生です。ときには相手を傷つけたり、傷ついたりもします。だけど、そこから前へ歩き出そうという力。自分を変えていこうという力をもっている子どもたちです。

 人はいろいろな面をもっています。それが人間の難しくて、おもしろいところです。そんなことを、糸子たちを書きながら、彼女たちに改めて気づかせてもらったような気がしています。

いとう みく●既刊に『おねえちゃんって、もうたいへん!』。

「糸子の体重計」
童心社
『糸子の体重計』
いとうみく・作
佐藤真紀子・絵
本体1,400円