日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『ぐるぐるカレー』 矢野アケミ

(月刊「こどもの本」2012年11月号より)
矢野アケミさん

子どもが力をくれた『ぐるぐるえほん』

 ミキサーを買いました。まるくあいたくちの中に、りんごやバナナ、いろんな果物をポンポン入れて、スイッチオン! ぐるぐるぐるといきおい良く回したら、あっというまにおいしいフルーツジュースの出来上がり!

「たのしい!」

きがつけば、そんな「まるい形」が生活の中にたくさんありました。まるい形の面白さに夢中になった私は、すぐさま絵本を創ろうと思い立ち、今回刊行された「カレー」の他、「せんたく」や「ジュース」など三作のダミー(ひな形/試作)を作って、フリー編集者の松田素子さんに見せました。そして何度もねり直しをかさね、アリス館から出版することが決まったのです。

 当初の題名は『ぐるぐるまわすえほん』でした。私としては、指でページをぐるぐるするだけでなく、絵本自体をぐるぐる回して欲しかったのです。でも、「本自体を回す子はあまりいないのではないか?」との意見があり、悩みました。「絵本自体を回してください」と注釈をつけるのは、提案というよりも強制みたいでいやだったし。そんな中、「ダミーを見せたら、子どもが指で絵本の上をぐるぐる回して楽しんだよ」との声を聞き、「そうだよ、それでいいじゃん!」と頭を切り替えることができたのです。誰かに「こうしなさい」と言われたからでなく、その子は自発的にそうやって楽しんでくれたのですから! それに、よーく考えてみると、どうしても絵本自体を回さないといけない理由は、どこにもなかったのです。自分の最初の思い込みやこだわりから抜け出せた瞬間でした。子どもがその力をくれたのです。その後も、野菜を切るときの音を加えたり、カレーの絵がおいしそうに見えるようにと試行錯誤し、この『ぐるぐるえほん』を創り上げていきました。

 こうしてようやく刊行となった『ぐるぐるカレー』。指はもちろん、目と想像で回して、はたまた回さなくとも自由に楽しんで欲しいな! と思っています。でも、やっぱり、ぐるぐる回すと楽しいよ!

(やの・あけみ)●既刊に『ジェリーのあーなあーな』『ジェリーのながーいながーい』『ジェリーのこーろころん』。

「ぐるぐるカレー」
アリス館
『ぐるぐるカレー』
矢野アケミ・作・絵
本体950円