日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『あしたもきっとチョウ日和』 高田桂子

(月刊「こどもの本」2012年9月号より)
高田桂子さん

伴走しつづけたい

 きょうもわが家のまわりは、子どものあそび声でにぎやかだ。その時々でおしゃまだったり、はにかみやだったり、変化があって、今年度は元気すぎる女の子が主流らしい。

 学齢前の女の子たちが、男の子を従えて自転車レースを展開。キキーッと鋭いブレーキ音の合い間に、「いたい」と泣き声が何度もあがるが、脱落者はゼロで苛酷なレースはつづく。

 そうかと思えば、不気味に静かな時もあって、わが家の垣根からこぼれ出たチェリーセージの花をむしって無心に蜜を吸っている。一瞬、チョウの群れ? と見紛うばかりの可憐さ。

 この繊細でたくましいアンバランスな美しさを失わず、ぶじにチョウとして羽化できるように何かお手伝いできることはないか、と、つい考える。

 このところ、保育園などで、ままごとあそびに異変がおきているそうだ。

 昔は母親役が人気だったが、今はなり手がなく、なでたり抱いたりされるからペット役ならやってもいいという。そうして、ままごとは母親役が不在のままに進むが、「おかあさんはどこ?」ときかれると、「今病気で入院中」とか、「もう死んでいない」とあっさり亡き者にするケースもあるとか。

 これだけで母子の絆が希薄になったと断ずるのは早計だが、今一度、考え直すいいチャンスかもしれない。

 子どもは三歳くらいまで、言葉に表せない漠然とした不安の中にいる。それでも日々一歩ずつ冒険の旅に向かう。ふと不安を感じても、ふり返れば母の存在があり、駆けもどれば抱きしめてもらえる。その繰り返しの中で安心が育ったら、子ども自身が母のもとから自然に離れてゆくそうだ。そのためには三歳くらいまでに親子の絆をしっかり結んでおくことが大切、といった情報を、若い頃に深く知るチャンスがあったなら、息子にさみしい思いをさせなくてすんだのではないか……。

 仕事を持ちつづけ、行き届かなかった自分自身への反省もこめて、今働いているお母さんといっしょに0歳児保育などの問題を考え、伴走しつづけたいと願って本書をしたためた。

(たかだ・けいこ)●既刊に『ふりむいた友だち』『雨のせいかもしれない』『みかえり橋をわたる』など。

「あしたもきっとチョウ日和」
文溪堂
『あしたもきっとチョウ日和』
高田桂子・作
亀岡亜希子・絵
本体1,300円