こどもの本

私の新刊
『ヒナゲシの野原で』 佐藤見果夢

(月刊「こどもの本」2022年1月号より)
佐藤見果夢さん

戦場に咲く赤いヒナゲシ

 ベルギーの首都ブリュッセルから北へ二時間ほど列車に乗ると、イーペル駅に着きます。駅を出て少し歩けば、重厚な石造り建築が並ぶ市街。イーペルはフランダース地方に中世から栄えた、歴史ある商業都市です。

 イーペルの名は、第一次世界大戦の激戦地としても知られています。第一次世界大戦では、イギリス軍とドイツ軍との間でイーペルを奪い合う形となりました。両軍からの度重なる砲撃を浴びて、教会も、街のシンボルだった繊維会館も破壊され、市街は廃墟となりました。緑の野は掘り返されて、見渡す限り塹壕が続く戦場となり、何万、何十万という数の兵士が、敵と、悪天候と、泥沼と、病気に命を奪われる〝この世の地獄〟と化したのです。

 フランダースの野に

 ヒナゲシの花がゆれる

 何列も何列もならぶ十字架の間に

という言葉で始まる詩があります。

 カナダの軍医ジョン・マクレーがイーペルの戦場で書いた詩で、第一次世界大戦中に雑誌に掲載されるや感動を呼び、世界じゅうに広まりました。

『ヒナゲシの野原で』は、イーペル郊外に住む三世代の家族を描いた物語です。マクレーの詩を中心に据え、詩の精神を受け継ぐ村の人びとの姿を、著者モーパーゴが巧みに語ります。

 文中にあるように、戦後修復された繊維会館の建物は、この詩から名前をとった「フランダース戦場博物館」として整備され、敵・味方を越え、国を越えた戦争資料を保存・展示する、貴重な博物館となっています。

 イギリスやカナダ、オーストラリアなどでは、毎年十一月十一日の戦没者記念日に慰霊祭が行われ、多くの人が赤いヒナゲシの造花を身につけます。一編の詩から人々の思いが繋がり、戦死者を追悼し、戦争の悲惨さを次代に伝える運動が続いているのは、解説の通りです。なお、日本の英国大使館やブリティッシュカウンシルなどでも、その時期になるとヒナゲシにちなんだ募金箱が置かれるそうなので、ご参考まで。

(さとう・みかむ)●既訳書に『アーニャは、きっと来る』『戦火の馬』『兵士ピースフル』など。

『ヒナゲシの野原で』
評論社
『ヒナゲシの野原で』
マイケル・モーパーゴ・作/マイケル・フォアマン・絵/佐藤見果夢・訳
定価2,200円(税込)