日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『聞かせて、おじいちゃん』 横田明子

(月刊「こどもの本」2021年11月号より)
横田明子さん

今を生きる子どもたちへ

 創作読み物を中心として書いている私が、ノンフィクション(NF)を書くきっかけとなったのは、所属している日本児童文芸家協会で企画されたノンフィクション講座でした。

 これまで数々の優れたNF作品を世に出されていらっしゃる国松俊英先生を講師に、五回の講義を受けましたが、最後に出された宿題が「各自、題材を見つけてくること」でした。

「さて、何がいいだろう」新聞やテレビのニュース等で探す中、ふと手にしたのは地域の情報誌。目に飛び込んできた『孫のひと言で原爆の語り部に』というタイトルに心を動かされました。

 そこには、五十九年間誰にも語れなかった広島での被爆体験を、孫に聞かれて初めて口を開いた、という森政忠雄さんのエピソードが紹介されていました。ずっと黙り続けていた時間の長さに驚くとともに、では、どうして孫には話し、その後、語り部となったのか。この心情と経緯を解き明かしてみたい。私は、強い思いにかられて、さっそく森政さんを取材しました。

 ただし、現在の森政さんご自身の視点からだけですと、どうしても、大人目線での語り口になってしまいます。

 では、子ども向けのNF作品にするにはどうすればよいか。試行錯誤を続けるうちに改めて気がつきました。森政さんが被爆したのは、孫の友紀子さんと同じ十一歳の時でした。当時の子どもの目に、あの原爆・戦争はどのように映ったのか。単なる過去の事実の伝達ではなく、今を生きる子どもたちが、森政さんの体験に触れながら、自らにも重ね合わせて読んでいけるよう人間性豊かに書く。さらに、戦争や原爆の残酷さを強調するばかりではなく、それが何故起きてしまったのか、根本的な歴史的背景まで分かりやすく書く。

 こうして生まれたのが本書です。

 過去の出来事は、決して他人事ではありません。知った事実を、これから生きていく未来にどのように生かしていけばいいのか。原爆の語り部・森政忠雄さんの物語が、それを考えるメッセージになればと願っています。

(よこた・あきこ)●既刊に『四重奏(カルテット)デイズ』『手と手をぎゅっとにぎったら』『アサギマダラの手紙』など。

『聞かせて、おじいちゃん』
国土社
『聞かせて、おじいちゃん』
横田明子・著/山田 朗・監修
定価1,650円(税込)