日本児童図書出版協会

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こどもの本

我が社の売れ筋 ヒットのひみつ27
『おべんとうバス』 ひさかたチャイルド(チャイルド本社)

(月刊「こどもの本」2021年10月号より)
『おべんとうバス』

出版から15周年 劇遊びの定番となった

真珠まりこ 作・絵
2006年1月刊行

 保育士さんが、「ハンバーグくーん!」と声をかけると、大きなハンバーグの絵を頭につけた子が、「はーい!」と元気よくお返事。そして段ボールで作った赤いバスに乗り込みます。その横には、自分がお返事をする順番を今か今かと待っているえびフライちゃんやブロッコリーくんたち……。園での発表会やお遊戯会で、真珠まりこさんの『おべんとうバス』の劇は、今では定番となっています。

 2021年7月現在、60万部のロングセラーとなっている『おべんとうバス』ですが、もともとは、チャイルド本社の月刊絵本として刊行されました。そして、当初から読者の反響が大きい作品でした。

「子どもが食べ物さんたちになりきって、『はーい』とお返事してくれた」「身近な食べ物が主役なので食い入るように見ていた」などたくさんのお便りが寄せられました。対象年齢は0、1、2歳児。読み聞かせをただ聞いているだけかと思った子どもたちからいきいきとした反応が返ってくることに、多くの大人が驚いたのです。「プチトマトやブロッコリーが食べられるようになりました」という感謝のお便りをいただいたこともありました。

『おべんとうバス』は、ハンバーグやえびフライが目・鼻・口のついたキャラクターになっていて、名前を呼ばれると、「はーい!」とお返事をしてバスに乗ります。最後は、キャラクターから食材へと戻り、なんと、バスといっしょに丸ごと、お弁当になってしまうという構成です。ラストの「いただきます!」という文とともに食べるまねをすれば、おいしいお弁当を味わっている気持ちにもなれる、そんな絵本です。

 校正の段階で、編集部内では、「それまで動いていたキャラクターが食べられてしまうのはかわいそうではないか」という意見も出ました。しかし、読者の反応からすると、どうも、子ども、特に0、1、2歳という年齢の子どもは、それをかわいそうという気持ちにはならないようで、その心配は杞憂でした。動いているキャラクターから食べ物という無生物になっても、その境目を容易に乗り越えてくれたのです。それこそが子どもの力だと思いました。

 ご家庭、保育園、幼稚園で定着したこの絵本は、2006年にひさかたチャイルドより市販化されてから15周年を迎え、節目となる今年8月、新作『おべんとうバスのかくれんぼ』が刊行されました。きっと、小さなお子さまと保護者、保育者との間に、新しくて楽しくておいしいコミュニケーションが生まれることと思います。ぜひ、お楽しみください。

(ひさかたチャイルド(チャイルド本社) 加藤暢穂)