こどもの本

我が社の売れ筋 ヒットのひみつ24
『空の飛びかた』 光村教育図書

(月刊「こどもの本」2021年7月号より)

二つの基準に真摯に向き合う

ゼバスティアン・メッシェンモーザー 作/関口裕昭 訳
2009年5月刊行

 制作にあたっては、二つの基準を大事にしています。一つ目は、自分自身がその作品をおもしろいと思えるかということ。二つ目は、そのおもしろさを充分に伝えられるかということ。

 評価の観点からは、前者の基準は主観的なもので、後者の基準は客観的なものになるのですが、制作時のポイントはそのバランスにあって、塩梅がうまくいったものが結果的に長く愛される作品となるように思います。主観が過ぎると範囲が狭くなってしまいますし、押しつけがましい。反面、客観が過ぎるとあいまいになり、ぼやけてしまいます。どちらが過ぎても仕上がりが悪くなるわけです。

 ここで本作について振り返ってみますと、内容とイラストについては申し分なく、とてもおもしろいと思いました。一つ目の基準はクリアです。ところが、二つ目の基準でとらえた時に問題がありました。それは表紙デザインです。

 原書の表紙は、くすんだ背景色にしょぼくれたペンギン一羽というもので、タイトル文字にもデザインはほどこされておらず、一言でいえば野暮ったい感じを受けました。表紙はとても重要です。作品のおもしろさを充分に伝えるためにも、ここを見過ごすことはできません。本作では、本文のイラストから選びました。

 読者は感覚的に「こういう表紙なら、こういう内容の話かな?」と、中身を読む前からある程度頭の中にイメージを描きます。どれだけそのイメージに近づけられるかがカギを握るのですが、これは自分の読みに賭けるしかありません。その読みに基づいて、さじ加減を考えるという具合です。

 ところで、本作ではそれまで空を飛べていたペンギンが、「おれ、本当は飛べないんじゃ?」と疑念を抱いた瞬間、墜落してしまいます。そこに出くわした男の協力を得て、ふたたび空を飛ぶまでの奮闘を描いているのですが、冒頭にこんな内容のことが書かれています。

 ペンギンは空を飛べない。でも、大まじめに鳥になりきれば、きっと飛べる、と思いこんでいた。

 最後にペンギンは空を飛べるようになるのですが、その理由はふたたび自分を信じることができたからです。雑念を捨て、自分を信じ切れるかどうか。制作過程にも似たような場面があります。なかなか難しいですが、そこにしっかりと向き合うことが、ヒット作につながる第一歩になるのではと考えています。

(光村教育図書 相馬 徹)