日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『魔笛の調べ1 ドラゴンの来襲』 岩城義人

(月刊「こどもの本」2021年6月号より)
岩城義人さん

時をこえる魅力

ハーメルンの町から百三十人の子どもが消えたのは一二八四年のこと。いまから七百年以上も前になります。にもかかわらず「ハーメルンの笛吹き男」のお話は、時をこえ、現代まで語りつがれています。

なぜこの伝説はこれほど人を魅了するのでしょうか。史実をもとにしているのも、おそらく理由のひとつでしょう。事実のインパクトは絶大です。

しかし、もしこのお話がただの失踪事件だったなら(実際、伝説の一部は後で足されたものということは、「あとがき」で書かせていただいた通りです)時をこえ、国境をこえてまで語りつがれる伝説になっていたでしょうか。

事件そのものよりむしろ、奇妙な笛吹き男が魔術的な力を使ってネズミを退治し、その後、子どもたちをさらうという、いわば〈ファンタジー〉的なところが、人びとを魅了する大きな理由なのかもしれません。

そのハーメルンの伝説を下じきにしたのが、本書「魔笛の調べ」シリーズです。本書においては、ファンタジーの要素はいっそう増大され、ネズミはもとより、ドラゴンにグリフィン、魔法使い、また、ハーメルンの笛吹きと同じ笛吹きたちも出てきます。

そして、物語を動かすのが、「なぜハーメルンの笛吹きは子どもたちをさらったのか? さらわれた子どもたちはどうなったのか?」という〈ミステリー〉です。その謎が、次から次へと明らかになり、息をのむ展開がまっています。

最後に、この物語には空想ではない特徴がひとつ。それは音楽です。物語に出てくる笛吹きたちは、笛を使って魔法のような力を使います。しかし、笛の力は魔法とは少しちがうようです。それがどんなものかは、だれもが知っているといいます。

シリーズは全部で三部作。二巻では、グリフィンの種族や、古の魔法使い、魔法道具なども登場し、ファンタジーの世界がさらに広がります。

本書が、本家のハーメルンの笛吹きの物語と同様、ながく読みつがれることを願っています。

(いわじょう・よしひと)●既訳書に『オーケストラをつくろう』『プラスチック星にはなりたくない! 地球のためにできること』など。

『魔笛の調べ1
評論社
『魔笛の調べ1 ドラゴンの来襲』
S・A・パトリック・作/岩城義人・訳
定価1,760円(税込)