日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『まんぷくよこちょう』 なかざわくみこ

(月刊「こどもの本」2021年5月号より)
なかざわくみこさん

日常から、不思議な世界へ

私は、散歩をするのが好きです。

『まんぷくよこちょう』は、私が東京を散歩していて見つけた景色が、もとになっています。

2012年頃に、東京都武蔵野市(吉祥寺)の「ハモニカ横丁」と、東京都葛飾区(立石)の「仲見世商店街」を、主に取材して描きました。

そこから、じっくり時間をかけて、この絵本が出来上がりました。

ラフを作っている間は、絵本として、形にできるかどうか、わからなかったのですが、商店街や横丁の雰囲気に、妙に魅かれるものがあり、どうしても描いてみたいという気持ちがありました。

横丁は、一歩入ると、狭いけれど、誰かの話し声が聞こえてくるような、人の気配があり、異世界とつながっていそうな感じもして、わくわくします。

古い商店の建物も、今までの時間が、染み込んでいるような佇まいで、親しみを感じます。

一人で歩いていても、買い物してもしなくても、自然とそこに溶け込んでしまう不思議な場所です。

なかなか絵本の形にまとまらず、試行錯誤しているうちに、日常の風景を描くことを大切にしながら、自分のもともと描きたいものも引き出されて、最後の不思議な存在たちのひみつのおまつりシーンが見えてきました。

誰も知らない隙間に、へんてこなものたちがいそうな感じがするというのは、私が横丁で感じた魅力だったのかもしれないなと思います。

「日常から、不思議な世界へ」という絵本をどこかで作りたい気持ちもあったので、描くことができて、よかったなあと思います。

私の祖父は下町の江戸っ子で、なじみのお店で買い物をするのが好きでした。そんなことも、少し思い浮かべながら描きました。

今、気軽に、人と触れ合ったり、外に出かけられない状況が続いていますが、いつでも迎えてくれるお店でのやりとりは、なにげなくて、うれしくて、ありがたいことだなあと感じます。

(なかざわ・くみこ)●既刊に『なぞなぞのみせ』(絵)『さがしえ12つき』『かあさんのまほうのかばん』(絵)など。

『まんぷくよこちょう』"
文溪堂
『まんぷくよこちょう』
なかざわくみこ・作・絵
定価1,650円(税込)